所用があって、昼下がりに上野公園に芸大の美術館と西洋美術館を訪れる。ついでに展覧会でも…と思ったら今日は折悪しく月曜日。
西洋美術館では来週から始まる特別展「パルマ: イタリア美術、もう一つの都」の展示作業中。ちょっと覗かせてもらうと、思いのほか充実した内容のようで楽しみだ。ここで昔の編集仲間の遠山真佐美女史に出くわす。今日はカタログの仕事で来たのだという。
坂を下って夕暮れ時の広小路へ。このあたりを歩くと今でもちょっと胸が疼く。
昔々、半年間ほど、このあたりの路上でアクセサリー売りのアルバイトをしていた。大学を辞め東京で一人暮らしを始めたものの、手になんの職もなく生活に困窮していた時分だ。
京成上野駅出口の真向かいの「永藤」というパン屋の軒先を借りて、ブローチやらペンダントやらを屋台に並べて細々と売っていた。1975年秋から翌年の春にかけてのことだ。
小生には自慢の特技があった。プラスチック製の指輪に電動ドリルの切っ先を当てる。すると表面の色鮮やかなコーティングが削られて、そこだけ白い刻線が現れるのだ。このやり方で、文字やイラストを刻み込んだオリジナル指輪を作るのである。恋人同士の名を記し、二人の名の間に小さな二匹の魚が接吻している図柄を彫ると、それがけっこう評判になって、面白いように売れた。
ただし、寒い季節だったので、上野の山から木枯らしが吹き下り、手がかじかんで上手く彫れない日もあったっけ…。隣には天津甘栗の屋台が出ていて、キズものの栗をよく貰って食べた。
久しぶりに界隈を歩いてみたら、永藤はとっくにパン屋を廃業したらしく、「ナガフジ・ビル」という名ばかりの建物があるだけ。位置だけはあの頃と同じなのだが。
今は昔、懐かしいような、気恥ずかしいような青春時代の思い出だ。