昨夜へとへとに疲れて帰宅すると、ポストに外国小包が届いていた。一週間前に米国アマゾンへ注文した本がもう到着してしまう。凄い時代ですね。
Alla Rosenfeld (ed),
"Defining Russian Graphic Arts 1898-1934: From Diaghilev to Stalin"
Rutgers University Press, New Jersey, 1999
このような書籍が出ていたなんて寡聞にして知らなかった。
せんだって札幌の Boulez さんが送って下さった展覧会カタログ『舞台芸術の世界:ディアギレフのロシアバレエと舞台デザイン』(→
ここ)の監修者がこのアラ・ローゼンフェルド女史なのだ。今は米国で活躍される彼女も、もともとロシア人なので「ロゼンフェリト」あるいは「ロセンフェリト」とお呼びすべきなのか詳らかでない。
ともあれ、そのカタログを一読して彼女の所論が優れており、視野が広いのに感心して、早速 amazon.com で検索し、この本に行き当たったという次第だ。
題名からうすうす想像していたとおり、この本はディアギレフが発行した世紀末マガジン『芸術世界』から説き起こし、未来派、スプレマチズム、構成主義へと連なるグラフィズムの系譜を幅広く包括的に辿った著作である。副題の「ディアギレフからスターリンまで」とはそれを指した惹句なのであろう。カラー図版もかなり収載されているが、この領域はすでに良書が少なくないので、画集としての充実度がとびきり出色というわけには参らぬ。
では本書の見所はといえば、むしろ研究者数人で分担して書いた論考にあろう(◎印はローゼンフェルド女史の手になるもの)。
「世紀転換期のロシア・グラフィック・デザインにおける国家アイデンティティの模索」◎
「美術アカデミーでのグラフィック・アート小史 1895-1935」
「19世紀末・20世紀初頭の書籍カヴァー・デザイン: ロシア美術アカデミー研究博物館コレクションより」
「書籍と衣裳のデザイン 1900-1930: ロシア美術アカデミー研究博物館コレクションより」
「『芸術世界』と世紀転換期のロシア美術雑誌 1898-1910」
「芸術世界派: 書籍とポスターのデザイン」◎
「新しい美学: ロシア未来派の書籍における言葉とイメージ」
「逆さま世界: 第一次大戦・ボリシェヴィキ革命・内戦期のロシア・ポスター」◎
「『現代のイコン』か『大衆プロパガンダの道具』か?: ポスターをめぐるロシアでの議論」
勘所を抑えた面白そうなエッセイがてんこ盛り。なんと驚いたことに、終章はロシア絵本についての論考だ。
「ソヴィエト絵本にみる『具象』対『抽象』 1920-1930」◎
恥かしながら、わが「幻のロシア絵本 1920-30年代」展カタログは、このローゼンフェルド女史の論考をまるで知らぬまま編纂してしまった。これだから素人監修者(ワタクシのことですヨ)は赤面モノなのですね。
恐る恐る、この終章を開いてさっと通読。そしてほっと胸を撫で下ろす。大丈夫、おおむね既知の情報しか盛られていないし、論旨の筋道も例示作品も、まずは想定の範囲内だ。わがアレクサンドラ・シャツキフ女史の論考のほうが明らかに優れている。とりわけロシア絵本の盛衰を歴史のなかでダイナミックに捉える視点において。
ともあれ、1920-30年代のロシア絵本を「ロシア・グラフィズムの系譜」のなかで大局的に捉えようとする者(ワタクシです)にとって、本書は裨益するところが頗る大きい。上に掲げた章立てだけからも、そのことは想像がつくと思う。それにしても「ロシア・グラフィック・アートを定義づける」とはずいぶん強気なタイトルだ。よほど自信がなければこういう標題をつけはしまい。
今日はとりあえず、「こんな本が出ていますよ」という紹介にとどめるが、いずれ全体を通読した暁に、再度この本に言及することになろう。