…などと1925年12月のパリに遙かなる想いを馳せていたら、ベルが鳴り宅急便が配達されて、いきなり21世紀の現実へと引き戻された。
アマゾンから届いた荷物は「音楽のちから」というDVD。忘れもしない2006年8月28日、下北沢の北沢タウンホールで行われた「吉野金次の復帰を願う緊急コンサート」を収録したライヴ映像だ(グリーンドア音楽出版)。この夜のことはもちろん明瞭に覚えている。なにしろ最前列のど真ん中で観たのだ(→
吉野金次のためならば…)。
当日ヴィデオ撮影が行われているのは気づいていたが、あくまで病床の吉野さんに見せるための収録と思っていたので、こうしてまた追体験できるとは考えてもみなかった。昨日、たまたま古本・海ねこさんのサイトでDVD発売を知らされ、待ちきれずにアマゾンで注文したら、その日のうちに配達されたというワケ。なんという便利な世の中であることよ!
そのあとすぐ家人が帰ってきたのでDVD鑑賞はお預け(TVをご覧いただく関係で)。
(夜更けになって)
自分が居あわせて、つぶさに見届けたコンサートをこうして茶の間で見直すのって、実に不思議な気分だ。
このコンサートは矢野顕子の突然の発案で急遽決まったものなので、出演者も「細野さんが出る」「大貫妙子も参加するらしい」といった按配で、当日まで漠然としかわからなかった。にもかかわらず切符は早々と売り切れ、小生のようなノロマが入手できたのは奇蹟に近い(しかも整理番号が七番だ)。
当日の出演者を改めて記しておこう(登場順)。
*矢野顕子
*細野晴臣 with 高田漣・コシミハル・伊賀航・鈴木惣一朗・浜口茂外也・徳武弘文
*ゆず
*友部正人
*井上陽水 (矢野顕子とデュオ)
*大貫妙子 (矢野顕子とデュオ)
*佐野元春
*細野晴臣 (矢野顕子とデュオ)
このうち当夜の最大のサプライズは陽水の参加だったが、さすがに本DVDには未収録。このとき矢野のピアノで唄った自作「海へ来なさい」には心底痺れたので残念だ。あとはあの晩のまんま。冒頭のアッコちゃんの唄う「夏なんです」から最後の挨拶まで、一切編集の手は入っていない。そのことは大貫妙子が歌の出を(歌詞を?)間違えたところまでそのままなのでよくわかる。
ざっと通して聴いた印象はだから、当日のエントリーで次のように書いたのとおんなじだ。
誰しもが吉野との仕事を懐かしく回想し、感謝の言葉を口にし、病からの恢復を祈って一、二曲ずつ歌う。声高に叫ぶのではないが、どれも聴く者の心に深く染み入る唄ばかりだ。
たまたま運よく最前列中央に坐れたため、綺羅星のごとき面々を二、三メートルの距離で聴くことができた。まさに至福のひとときだった。
陽水の自作「海へ来なさい」、ター坊+アッコのデュエット「ウナ・セラ・ディ東京」、細野さんがベースを弾きながら歌う「相合傘」など、その印象を書き出したらきりがない。朝になってしまいそう。
終生忘れられないコンサートになるだろう。来ることができてよかった。
個人的な感慨をもう一言二言付け加えるなら、2005年9月「ハイドパーク・ミュージック・フェスティバル」@狭山・稲荷山公園(畏友UMI さんの
素晴らしい報告がある)での「雨上がり」ライヴに始まる、細野さんの "Hosono House" Revisited がそれから丸一年続いて、この日どうやら大団円を迎えたらしいこと。その始まりと終わりとを、ともにカブリツキで観られたことは、わが人生最大の、とは言わぬまでも、比類のない喜びであった。老成してリラックスした細野さんはホント、素敵なのだ。
大貫妙子さんの生のステージも、おそらく三十年ぶりだった。シュガーベイブのライヴで何度となく彼女を見聞きしたのが1975年、下北沢ロフトでのソロ・デビューが76年8月、新宿ロフトでのファースト・アルバム発売記念ライヴというのもあったっけ(そのとき配布したティーカップを後生大事にまだ持っているのだ)。
その後もCDではたびたび耳にしていたけれど、相応に年を重ねて自然体の魅力を放つ今の大貫妙子を間近にみて、ああ、この人は大切なものを何一つ失わずに生きてこられたのだなあと実感。こうしてDVDで再見しても、ター坊がアッコちゃんとデュエットする「ウナ・セラ・ディ東京」、ほんとに良かった。この一曲を聴くだけでも、これは必携のディスクですよ。