たった今、高円寺から帰ってきたところ。
対談って難しいものだと痛感した。打ち合わせしすぎると、展開が予定調和になってしまうし、ぶっつけ本番だと話がとりとめなくバラけてしまう。今日のは間違いなく後者。話題が一貫せず、行き当たりばったりだったし、当方が一方的にしゃべりすぎた。相方の広瀬さんにお詫びしたい。
ご参集いただいた聴衆の方々にも申し訳なかった。お一人様七百円も頂戴しているのに、到底それに価するトークができず、ただただ恥じ入るばかりである。勧進元のコクテイルさん、企画者の海ねこさんにも深くこうべを垂れる次第。
五時からのトークに先立って、広瀬さんのお店である西荻の古書店「音羽館」に足を運んでみた。一時間ほど店内にいて、面白い本がどれくらい見つかるか、実地に確かめてみたかったのだ。その成果は今日のトークでもご紹介したが、ここに改めて記しておく。最後に記した金額が音羽館の値づけである。
デボラ・モガー 『チューリップ熱』
立石光子訳、白水社、2001年、定価2,200円
*フェルメールやレンブラントが活躍した17世紀のアムステルダムを舞台に、市井の男女の秘められた恋を描く。題名は当時のオランダを席捲したチューリップ投機を意味する。オランダ風俗画の世界がそのまま動き出したような興味津々の英国小説。600円。
アルベルト・モラヴィア 『眠くて死にそうな勇敢な消防士』
千種堅訳、早川書房、1984年、定価1,500円
*イタリアの文豪による童話24篇を集めた一冊。副題に「モラヴィア動物寓話集」とあり、先史時代を舞台に、動物たちが奇想天外な行動を繰り広げる。カルヴィーノの童話は知っていたが、モラヴィアにこの手の作品があるとは知らなかった。面白そう。500円。
コンスエロ・ド・サン=テグジュペリ 『バラの回想』
香川百合子訳、文藝春秋、2000年、定価1,905円
*副題は「夫サン=テグジュペリとの14年」。もっぱら「理解のない悪妻」として語られてきた彼女からの「意趣返し」の回想録。夫人の歿後に刊行されるやフランスで大いに物議を醸したという。題名の「バラ」の意味は言わずもがなですね。500円。
近藤富枝 『田端文士村』
中公文庫、1983年、定価400円
*大傑作『本郷菊富士ホテル』の作者が著した、もうひとつの近代文学交遊史。大正年間、田端に住まった作家たちの濃密な交流を活写。登場人物は芥川龍之介、室生犀星、萩原朔太郎、堀辰雄、中野重治などなど。本書はもはや絶版。300円。
石田繁之介 『綱町三井倶楽部』
中央公論美術出版、2001年、定価3,700円
*副題「J. コンドルの建築をめぐって」。ジョサイア・コンドルの洋館ときいて、てっきり湯島の岩崎久弥邸(重文)についての本かと早合点したら、さにあらず、三田に現存する「三井倶楽部」の研究書だった。新発見のコンドルの手紙やさまざまな記録文書を駆使して、明治末から大正初年にかけての財閥と建築家の関係をスリリングに読み解く。1,500円。
三浦淳史 『レコードを聴くひととき ぱあと2』
東京創元社、1983年、定価2,300円
*クラシック音楽にまつわるエピソードを語らせたら天下一品だった著者の名エッセイ集。読み出したら止まらぬ面白さ。ひしひしと伝わる音楽への愛。広瀬さん曰く「三浦淳史さんはクラシック界の植草甚一ですね」。既読だが安いので購入。600円。
谷川俊太郎+和田誠 『けんはへっちゃら』
あかね書房、1976年、定価680円
*ご存知、黄金コンビの数多くある共作絵本のなかでも、いまや探しにくい一冊(初版)。今日買った12冊のうち、定価以上の値がついた唯一の本だが、もう刊行から三十年以上経つので、おいそれとは見つからない。カヴァーつき美本。1,800円。
ウォルター・デ・ラ・メア 『ムルガーのはるかな旅』
脇明子訳、岩波少年文庫、1997年、定価700円
*英国詩人デ・ラ・メアの傑作ファンタジー。昔々、飯沢匡訳『サル王子の冒険』として親しまれた物語(飯沢の放送ドラマ「ヤンボー、ニンボー、トンボー」の霊感源)の新訳。買い逃がしていたら、たちまち品切。あわててゲットした。400円。
高橋喜平 『ノウサギ日記』
福音館日曜日文庫、1983年、1,100円
*雪や氷についての著作で名高いナチュラリストが子供向けに書いた野兎観察記。数多く挿入された写真が愛くるしい。この「福音館日曜日文庫」は神沢利子『流れのほとり』、石井桃子『幼ものがたり』、ボストン夫人の自伝『意地っぱりのおばかさん』など素晴らしいラインナップだが、全点絶版。探すなら今のうちだ。800円。
『石井桃子集 2』
岩波書店、1998年、2,900円
*全七巻からなる著作集、本巻には「山のトムさん」「ふしぎなたいこ」など12篇を収録。来週の土曜日(3月10日)は石井桃子さんの百歳の誕生日だ!1,000円。
と、ここまでで十冊、合計でちょうど8,000円はいかにも安い。音羽館の値づけがいかに良心的か、おわかりいただけよう。
ついでに店頭の均一の棚であと二冊。
矢作俊彦 『スズキさんの休息と遍歴』
新潮社、1990年、1,845円
*文庫本で既読だが、書き文字・イラスト満載の本書は単行本で再読すべし。100円。
南條竹則 『遊仙譜』
新潮社、1996年、1,500円
*古代中国に取材した仙人ファンタジー。上述の三浦淳史さんの本に、若き日の南條さんのことがちらっと出てくる。100円。
以上が今日の収穫である。自慢しているのではない。広瀬さんのお店が東京一(もしかすると日本一)魅力的な古本屋であるという小生の年来の主張を裏書きしたくて、ご紹介した次第である。ふう、さすがに疲れたわい。これで眠るとしよう。