よく晴れた一日。風も穏やか。家人は踊りの稽古で外出。その間に心おきなくCDをかけまくる。いつもは遠慮して小さな音で聴いているのだ。
先日 amazon の中古市場で800円という安価で手に入れた「子供のために Pour les enfants」というCD(Bellwood BZCS-3025)。これがすっかり気に入り、何度も聴き入ってしまう。ポーランドの作曲家アレクサンドル・タンスマン Alexandre Tansman(1897-1986)が子供用に書いた平易なピアノ曲ばかり集めたアルバムで、演奏は花岡千春さん。彼(男性なのだ)は両大戦間の珍しいピアノ曲の紹介に努めるユニークなお方。タンスマンの紹介にも尽力されているという。いかにもフランス六人組の周囲で鳴っていた音楽らしく、書法がとても洒落ていて、響きが素敵。ブルーズの香りがする曲も。日曜の長閑な昼下がりに最適の音楽かも。
タンスマンは1933年にはるばる来日し、自作の演奏会を催したことがある。ジル=マルシェックスやアレクサンドル・チェレプニンと並んで、戦前の洋楽界に新風をもたらした人物のひとりである。このCDの解説書にはその辺りの情報も抜かりなく盛り込まれ、パリの街頭の子供たちをあしらったジャケット写真にも心がなごむ。
夕方、帰ってきた家人とともに、衛星TV(ザ・シネマ/706ch)でドキュメンタリー映画「アルフレッド・ヒッチコック~天才監督」(Ted Hayms 監督、1999)を観る。
原題を "Dial H for Hitchcock: The Genius Behind the Showman" といい、生身のヒッチを知る一人娘パトリシアをはじめ、テレサ・ライト、ジャネット・リー、ティッピ・ヘドレン、ノーマン・ロイドら出演者が貴重なエピソードを披露し、ジョナサン・デミ、ブライアン・デ・パルマ、ピーター・ボグダノヴィッチ、はてはロバート・アルトマンまでが登場して、ヒッチへのオマージュを口にする。幾多の名場面のクリップのほか、メイキングやパブリシティ用の映像、TVの「ヒッチコック劇場」、珍しいヒッチコック家のホーム・ムーヴィもふんだんに出てくる。
話題が「めまい」になると、すかさずデ・パルマ監督が語り出す。まあ、当然だろう。「これこそは映画監督の映画。監督とは幻影(イリュージョン)に形を与える仕事なのだ」と口を極めて絶賛。
面白さに抗うことなどできない。ヒッチコック作品ならたいがい観ているものの、またもや再見したくなった。それも、映画館の暗闇で、大きなスクリーンに投影して…。それはもう叶わぬ夢なのだろうか。