用事を済ませたあと、高円寺で下車。早く着きすぎたので、そこいらを散歩して時間をつぶす。
隣りの阿佐ヶ谷に住んでいた頃は二日に一遍は訪れた馴染の街だったのだが、その後はすっかり足が遠のいてしまった。北口に出て、庚申通りとあづま通りを歩いてみる。四半世紀以上経ったので当然なのだが、知っている店はほとんど残っていない。それなのに、街そのものの佇まいはあまり変わっていない。
賑やかな庚申通りに比べ、あづま通りのほうはほどよく寂れ、そこそこ活気もあって、なかなかいい感じだ。何軒か古本屋があったので入ってみたが、残念ながらどこも面白味に欠ける。珍しい本がないばかりでない。本屋としての志が低く、品揃えに幅や奥行きが乏しいのだ。こんなことでやっていけるのだろうか。
暗くなった頃合に「次郎吉」へ。今は Jirokichi と書くのだそうだが、それでは気分がでない。まるで Konishiki みたい。1970年代以来、荻窪・西荻の「ロフト」とともにライヴハウスの草分けとして幾多のミュージシャンの登龍門となった店だ。今でも昔の場所に健在なので嬉しくなる。今夜はここで金子マリを聴く。八時開演。
彼女のライヴも久しぶりだ。金子マリ&バックスバニーとして活躍していた時分(1975~77年頃)は夢中になって通ったものだ。それも十回や十五回ではきかないだろう。「下北沢のジャニス」の異名(彼女自身は嫌っていたが)どおり、強烈なシャウトとパワフルな歌唱に震撼させられた。そのあと育児やら離婚やら、家業の葬儀屋(下北沢の有名な金子総本店)を継いだりと、しばらく活動が途切れていたらしい。当方も90年代に二度ほどライヴを聴いたあと、すっかりご無沙汰してしまった。
今日のメンツは以下のとおり。
金子マリ(vo)、北京一(vo)、森園勝敏(g)、岩田浩史(g)、マック清水(perc)
さすがに三十年前のようにはいかないが、金子マリは健闘していたと思う。ちょっと風邪気味(?)だったこともあって、声量もシャウトの威力も往時の五分の一くらいしかないが、それでも立派に聴かせる。同世代の駄夫(ワタクシです)をして奮い立たせるに充分の迫力だ。
実は今日、彼女のニューアルバムが発売されたとのことで、そのなかから「最後のレイディオ・ショー」(佐野元春・詞曲)、「東京の空の下」(矢野顕子・詞曲)、「ラリル」(金子マリ・詞、木村充揮・詞曲)などの新曲が披露された。それらも決して悪くないが、小生としては昔からの極めつけ「What's Going On」が聴けたのがことのほか嬉しかった。
森園・岩田のツイン・ギターはすこぶる強力。たいそう贅沢なバックだ。北京一は1975年にソー・バッド・レヴューのライヴで聴いて以来だろう。あのときと同じ、「カタツムリ」をまたしても演ってくれた。変わらないというか、進歩がないというか。でも、やっぱり可笑しくて、大いに笑わせてもらった。
アンコールは「ルート66」できめてくれた。熱演だった。