今日は所用で水戸芸術館へ出かけ、帰宅したら夜八時を回っていた。電車に乗ってただ行って帰ってきただけだが、それでもけっこう疲れた。
昨日ウィーン在住のBoe 君から知らせがあり、彼のチームがこの夏に撮影した映像がTV放映されるというので、風呂上がりにエルダーフラワー・コーディアルのグラス片手に鑑賞(NHK教育「芸術劇場」)。
「モーツァルト年」で沸く今夏のザルツブルク音楽祭を取材した番組だ。特別な記念年ということで、今年のフェストシュピーレではモーツァルトの劇場用作品全22本を悉く上演したという話に溜息。なんとまあ贅沢な企てであることか。
そのうちの「魔笛」と「フィガロ」の舞台がちょっとだけ映ったが、アルノンクール指揮による後者はいかにも凄そう。いずれ全曲を放映するときが楽しみである。
そのあと、同じ音楽祭で催された豪勢なモーツァルト・ガラ・コンサートが放映された。トマス・ハンプソン(br)、マグダレナ・コジェナー(ms)、エカチェリーナ・シウリナ(s)、アンナ・ネトレプコ(s)など、綺羅星のごとき歌手たちが次々に登場し、ダニエル・ハーディング指揮のウィーン・フィルの伴奏でとっかえひっかえアリアを歌う。なんというか、あまりに贅沢すぎる催しに、観ているこちらが怯んでしまいそう。
贔屓にしているコジェナーはさすがの説得力。それに対し、ネトレプコの歌唱は映像で見聞きする限り、いささか品格を欠くような気がする。
ザルツブルクにはいつか行けるのだろうか。映像を観るとたいそう美しい小都会だが、音楽祭シーズンは凄い雑踏なのだそうだ。そういえば、エーリヒ・ケストナーの小説に、この街を舞台にした素敵な中篇があった。『ザルツブルク日記』あるいは『一杯の珈琲から』という題で邦訳も出ている(小松太郎訳)。
ケストナーはナチス擡頭後もドイツ国内にとどまったが、親友の挿絵画家ヴァルター・トリーアはロンドンへと亡命してしまう。二人の親友は1937年の夏、音楽祭開催中のザルツブルクで密かに再会を果たす。そのときの好ましい印象をもとに、戦乱を前にした古都の一夏を活写した心温まる好篇である。ザルツブルク好きの方に、ぜひ一読をお奨めしたい。