"Salute to Percy Grainger" というCDを聴く。(Decca UCCD-3616)
イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンが先輩パーシー・グレインジャーに捧げたアルバムである。1968年に録音され、翌年イギリスでLPとして出たが、日本ではずっと未発売だったもの。このたびブリテンの歿後三〇年を記念して、自作以外の曲を指揮したCDシリーズの一枚として初めて世に出た。
当時、グレインジャーはすでにこの世の人でなく(1961年歿)、その名前すら忘れ去られようとしていた。それではならじ、という心意気で出されたアルバムだったが、当時どれほどの人が注目しただろう。小生はだいぶ後に中古盤でこれを見つけ、ずいぶん聴き込んだものである。なにしろグレインジャーのアルバムなんて、その時分にはほとんど出ていなかったのだ。
01. シェパーズ・ヘイ
02. ウィロー、ウィロー(柳の歌)
03. 日曜になれば私は十七歳
04. 放埓者のウィリアム・テイラー
05. 穴掘りに行く豚がいた
06. 私のロビンは緑の森へ
07. マックスウェル卿の夜の挨拶
08. モールバラ公のファンファーレ
09. 緑の野原で楽しく踊ろう
10. スコットランドのストラスペイとリール
11. 二つの歌曲(綺麗な乙女が牛の乳を絞る/タイムの小枝)
12. リスボン
13. 迷子のレディが見つかった
14. シャロー・ブラウン
久しぶりに通して全曲を聴いてみて、声楽と器楽をバランスよく配した選曲の妙、演奏から滲み出るグレインジャーへの愛情の深さに、改めて心うたれた。
このCDでもう一つ素晴らしいのは、宮澤淳一さんが担当された解説と訳詞である。全25ページ、ちょっとした書物に匹敵する内容だ。
オリジナルLPに載っているピーター・ピアーズ(テノール歌手、ブリテンの終生の伴侶)の回想が全文、日本語訳で読めるほか、グレインジャーの略伝、このアルバムの意義、全曲の懇切な紹介(ヴァージョンが明記されているのが嬉しい)、ブリテンとグレインジャーとの関係までが、新知見をふんだんに散りばめつつ詳述されている。これはたいへんな労作だ。加えて各曲の原詞と訳詞が付くのだから、まさに至れり尽せりの心づくし。これで1,200円とは申し訳ないくらいだ。
ブリテン自身が編曲したイギリス民謡集を聴いたことがあるが、精妙な和声に彩られたピアノ伴奏の書法がたいそう個性的で驚かされた。グレインジャーが先鞭をつけた民謡再生の試みは、ブリテンという確かな後継者を得て、見事な花を咲かせたのである。