武満徹の新作「ユーカリプス Eucalypts」は、来日したオーレル・ニコレ(フルート)、ハインツ・ホリガー(オーボエ)、ウルスラ・ホリガー(ハープ)、そしてパウル・ザッハー率いる室内オーケストラ「チューリヒ・コレギウム・ムジクム」によって世界初演された。1970年11月16日のことである。会場は日比谷公会堂。
行きもしなかった36年前のコンサートにかくも拘泥するのは、その音楽史的な重要さに比して、言及や回想のたぐいがあまりにも少ない気がするからである。作曲者の武満も、委嘱者のザッハーももはやこの世の人ではない。
当日のプログラム冊子を手に入れたので、ここに一夜の演目を書き写しておく。
ハイドン:交響曲第78番 ハ短調
シュターミツ:フルート協奏曲 ト長調 *独奏:オーレル・ニコレ
武満徹:ユーカリプス(フルート、オーボエ、ハープと弦楽のための) *世界初演
オネゲル:交響曲第2番(弦楽のための)
同じ内容の演奏会はこのあと翌17日に横浜の神奈川県立音楽堂、18日に大阪フェスティバルホールでも繰り返された。なお、17日のみは二曲目のシュターミツはモーツァルトのオーボエ協奏曲(独奏:ハインツ・ホリガー)に差し替えられた。
こうして書き写してみると、この演奏会を聴き逃がしたのが残念に思えてくる。
前期古典派の楽曲と現代音楽を併置するプログラムは、ザッハーが最も得意としたものだったし、新作「ユーカリプス」のあとに控えるオネゲルの第二交響曲もまたザッハーの委嘱作であり、戦争のさなかの1942年5月18日、同じこのチューリヒ・コレギウム・ムジクムの手で初演された、因縁の曲にほかならないからだ。
この日(と翌17日)の演奏はザッハーの指示でライヴ・レコーディングされ、新作発注の出資者である日本ロシュ株式会社(ザッハー配下の製薬会社の子会社)の手で私家版の二枚組LPにまとめられ、関係者に少部数が配布されたそうだが、小生は聴いたことがない。
とはいえ、16日の演奏会の模様はNHKからもTV放映されたから、だいぶ薄れたとはいえ、小生にもいくばくかの思い出がある。
(つづく)