昨日に勝るとも劣らない上天気。そこで今日は地下鉄とバスを乗り継いで、札幌市郊外に位置する「モエレ沼公園」を訪れてみた。1988年、最晩年のイサム・ノグチが設計を依頼され、マスター・プランのみを残して世を去ったため、文字どおり彼の遺作となった公園である。
敷地面積189ヘクタール。これはニューヨークのセントラル・パークの約半分の広さであり、私たちの思い描く公園のイメージからすれば桁外れに大きい。芝生で覆われた敷地にはさまざまな高低差がつけられ、カラフルな遊具を備えた小公園が点在する林、珊瑚を敷き詰めた直径数十メートルの円形プール(子供たちが水遊びできる)、間歇泉のように吹き上げるダイナミックな噴水、登ると息切れするほどの高さを備えた二つの山(富士山状の「モエレ山」と、メキシコの古代神殿風に石階段のついた「プレイマウンテン」)、展示室を併設したガラス製のピラミッドなど、さまざまな施設が点在し、互いに遊歩道で結ばれている。
ここを訪れるのは初めてではない。五年ほど前に佐藤幸宏さんに連れてきていただいたことがあるのだが、そのときはまだ建設途上で、まるで工事現場のような寒々しい印象を受けた(その日が曇天で、人影もまばらだったことも災いした)。公園のすべてが完成したのは昨年の七月。ノグチがこの地を訪れ、基本設計をスケッチしてから実に17年の歳月が経過している。
今日ここを久しぶりに再訪し、時間をかけて歩き回ってみて、それがどんなに特別な場所か、比類のない公園であるか、ようやく理解できた。このようなくつろぎの場を郊外にもつ札幌市民が心底羨ましく思われた。小生がもし子供だったら絶対ここが気に入るだろうし、自分に子供がいたら毎週のように連れてくるに違いない。
断っておくが、小生はイサム・ノグチのファンではない。それどころか、彫刻であれ照明器具であれ、彼の手がけた造形作品にはこれまで一度たりとも心を動かされたことのない人間なのだ。モエレ沼公園を歩いてみて、生まれて初めてノグチの想念の大きさ、凄さを理解した。いやむしろ、圧倒されたといったほうが正確だ。
もともと札幌市のゴミ集積場(不燃ゴミを地中に埋める)だったので、周囲の沼と蛇行する川を除いて、ここにはもともと自然は存在しなかった。すべてはノグチの想像力がこしらえた人為的な仕掛けにすぎない。にもかかわらず、「自然そのもの」としか思えぬこの雄大さはどうだ。森林、草原、海、山、川など、自然のあらゆるエッセンスを凝縮して、「これがわれわれの住む大地だ」とばかりに開示してみせた…。そんな印象を抱かずにいられない。
この計画がもちあがった際、「公園をつくって、そこにあなたの彫刻を置くのですか?」と尋ねられたノグチはすかさず、「そうではない、この公園全体が彫刻なんだよ」と答えたという。
イサム・ノグチは言葉の本来の意味で、ラディカル(根源的)な芸術家だったのだ。
三時間以上も公園をほうぼう歩き回ったので、ひどく腹がへった。ピラミッドのふもとに設けられたフレンチ・レストランで昼食。けっこうな値段がしたが、料理そのものも食器もサーヴィスも申し分なし。量もたっぷりあって大満足。いつの日かまた、誰か友人を誘って再訪したいものである。