素晴らしい晴天。澄み切った青空の下、今日は森のなかの野外ステージでピクニックコンサート。PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)の最終公演である。
今日は木下裕子さんの運転する車で郊外の「札幌芸術の森」、通称「芸森(げいもり)」へ。車を降りると、外は日差しが強く、じりじりと焼けつくよう。でも木蔭に入るとひんやり涼しく、吹く風が心地よい。やっぱり北国の夏はいいなあ。
一時半に会場入口に着くと、佐藤幸宏さんが待っていてくれた。彼とは美術館時代に知り合い、もう十年来のつきあいだ。お互い音楽好きとあって、このPMFの野外コンサートにも過去に二度ほどご一緒したことがある。
ステージからさほど遠くない空き場所をみつけ、三人で芝生の上にごろり。お目当てのワレリー・ゲルギエフの登場は夕刻六時なので、内外の演奏家たちの奏でる室内楽を聴きながら、飲み食いしながら気ままに過ごす。夕方にはすっかり日焼けして、腕も顔も真っ赤になる。
世界各地の学生が集まったPMFオーケストラの水準はきわめて高い。過去にもティルソン・トマス、デュトワらの指揮で聴いたことがあるが、在京オーケストラよりもはるかに上質で真摯な演奏を繰り広げる。技量も練習量もプロ顔負けなのだ。音楽へのひたむきな情熱が客席まで伝わってくる。
六時。定刻どおりにゲルギエフ登場。一曲目はモーツァルトのファゴット協奏曲。独奏のダニエル・マツカワはフィラデルフィア管弦楽団の主席だそうで、たいそう上手な若者だ。ゲルギエフの付けは音楽の流れにきびきび対応していて悪くない。
そして二曲目は最大の目玉、ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」。1947年改訂版だそうだが、管の奏者をところどころ補強して、三管~四管編成での演奏だ。
ゲルギエフの音作りはかなりアクが強く、曲によっては好悪が分かれようが、この曲には吉と出た。管楽器の独奏部分はことごとく強調され、グロテスクな色合いが表面に出る。これがひどく新鮮で、未知の曲を聴くかのようなスリリングな驚きが随所にあり、「春の祭典」に直結するストラヴィンスキーのプリミティヴ志向が顕在化する。幸宏さんの言を借りるなら、これは「表現主義的な」ペトルーシュカなのだ。
バレエ初演時(1911)の舞台装置・衣裳はアレクサンドル・ベヌアが手がけた民族色豊かなものだが、これをもし、より先鋭的なラリオーノフ、ゴンチャローワ夫妻が担当したらどんなことになるか? ゲルギエフの鮮烈な演奏は、聴く者をふとそんな夢想へといざなう。オーケストラも指揮者の高い要求に果敢に応えていた。
最後のチャイコフスキー「第五」は、良くも悪くもゲルギエフの面目躍如。随所でテンポを揺らし、思い切り歌わせる。ただし、これは小生の好む演奏スタイルではない。