いささか旧聞に属するが、ロシア書籍の輸入販売会社「ナウカ」が、破産手続きを東京地裁に申請した。すでに「毎日」「朝日」両紙で報道されたようだが、拙宅は新聞をとっておらず、昨日になってようやくネット情報を通じて知った。
小生はロシア語を全く解さない者だが、この国の音楽・美術・映画に対する興味から、東京・神保町の店舗にはたびたび足を運んでいた。
その後、ひょんなことから「幻のロシア絵本 1920-30年代」展(2004~05)を開催することになり、同社からは貴重な資料をご提供いただき、戦前の「ナウカ社」が日本へのロシア絵本の移入紹介に決定的役割を果たした事実が明らかになった。
展覧会が函館に巡回する直前に、ナウカの倉庫から柳瀬正夢旧蔵のロシア絵本が発見され、急遽それらも追加出品していただいたことも、忘れがたい思い出である。
同社が刊行する季刊誌「窓」は、ロシア文化に関する優れた論文や珠玉のエッセイを収めた、かけがえのない小冊子である。連載が契機となっていくつもの単行本が生まれたし、専門家のみならず在野の研究者にも門戸を開く姿勢が清々しかった。かく言う小生も、ロシア絵本についてのエッセイを二度ほど載せていただいた。
その「窓」も昨秋に突然休刊となり、多くの人々を悲しませた。それから一年も経たぬうちに、今度は会社そのものが倒産してしまうとは!
ロシアの出版界はソ連崩壊後の混乱期を脱し、いまや百花繚乱の活況をみせている。社会主義時代には考えられなかった亡命ロシア人の著作やモノグラフ、印刷・造本とも秀逸な美術書や展覧会カタログが矢継ぎ早に刊行されている。こうした時期に、ロシアに向かって開かれた窓が閉ざされてしまうのは、残念というほかない。
今日は東京へ出る用事があったので、神保町の店舗に行ってみた。
一見したところ何事もない様子だが、店頭には管財人名義の通告書が貼り出され、冷厳な事実を告げていた。
今年は大竹博吉が同社を創業してからちょうど75年目にあたっている。