千葉に越して来てもう十年になる。
ここに住んで何が気に入ったかといえば、海が近いこと。窓を開けると潮騒が聴こえる…というのは嘘だが、自転車でなら二、三分で浜辺に出られる。東京湾内、それも埋立地に造られた人工砂浜に過ぎないのだが、ちゃんと大波小波が寄せては返すし、カモメやウミネコだって飛びかう。
海のない埼玉で子供時代の大半を過ごし、東京に出てきてからももっぱら杉並や練馬に住んだから、横浜や鎌倉といった海辺の土地に、ひたすら強い憧れと羨望を抱いてきた。車窓からちらと海が遠望できただけで、もう心ときめいたものだ。
映画を見ていても、海辺での物語に過剰なほどに反応した。「八月の濡れた砂」や「あの夏、いちばん静かな海」のような湘南ムーヴィー、洋画なら「カオス シチリア物語」「海辺のポーリーヌ」「青い青い海」はもちろんのこと、本筋とは関係ない海浜シーンにも明瞭な記憶がある(「ロング・グッドバイ」「追憶」「ジュリア」などなど)。
昔々、友人たちと正月に鎌倉の七里ガ浜まで出かけて、凧上げに興じたことがある。たっぷりの海風を受けて楽々と、どこまでも高く揚がる。見上げると砂粒のようなちっぽけな点になり、しまいには見えなくなった。忘れがたい思い出だが、海辺に住めばこんなのはもう日常だ。
今日は梅雨の中休みらしく、青空が覗いている。このような日は砂浜で音楽を聴くのが最高だ。ドビュッシーの「海」か、イベールの「寄港地」か、ブリテンの「四つの海の間奏曲」、それともエルガーの歌曲集「海の絵」か。
そうだ、今日はぜひとも石川セリのCDを聴くことにしよう!