ジョージ・オーウェルの著作、とりわけ『動物農場』をこよなく愛する読者にとって、この小説は文字どおり必読ものなのだが、どういうわけか英国でも日本でも黙殺されたまま、まともに論評されたためしがない。素晴らしく感動的な「もしかすると、あり得たかも知れない」実録風フィクションなのだが。
David Caute
Phoenix, London
1995
『オーウェル博士とブレア氏』とは無論『ジキル博士とハイド氏』のもじりだろう。この題名と、表紙にあしらわれた少年と仔豚の写真とから、ひょっとして、これは・・・と勘づかれた貴殿はよほど鋭い御仁である。
そうなのだ、これはジョージ・オーウェル(本名エリック・ブレア)が寓話小説『動物農場(アニマル・ファーム)』を書くに至った経緯――その前日譚を、繊細な想像力で綴ったフィクションなのである。
このペーパーバックは1990年代末頃、ロンドンのテムズ河畔の青空古本市でたまたま出くわした。見返しには鉛筆書きで£3-とあり、すこぶる安価だが、読んでみると値千金。こんなに心を揺さぶられる本は滅多にない。読み進むにつれ、涙を抑えることができなくなる。どなたか邦訳する方は現れないだろうか。