今はどうだか知らないが、履歴書にはたいがい賞罰欄というものがあった。そこに何を書いたらいいのか困惑して、いつも空欄で済ませていた。「罰」すなわち犯罪歴や逮捕歴をわざわざ書き込む者はいないだろうが、小生の場合「賞」のほう、つまり受賞歴や表彰歴も全く持ち合わせていない。これまでの短くない人生で、表彰状なるものを貰ったためしが一度もないのだ。無位無冠といえば聞こえがいいが、公的に業績を認められることがないまま、ひたすら気儘に自己満足で生きてきた。
そういう小生なので、一週間ほど前に絵本学会という団体から、「選考の結果、昨年あなたが発表した論文が第五回〈日本絵本研究賞〉の受賞作に内定した。受ける意思があるかどうか返答してほしい」とだしぬけにメールで尋ねられたとき、思わずわが耳を疑ったものである。昨年の拙論といえば、白百合女子大学児童文化研究センターの研究論文集(第26号、2023年3月刊)に載った「光吉夏弥旧蔵のロシア絵本について」のことを指すに違いない。あんな地味でニッチな論考がはたしてそんな晴れがましい賞に値するだろうか。本当のところ自信はない。
なんでも、絵本に関する国内で出た研究書や研究論文のうち、ここ三年間に出たものを専門家が査読し、その一篇に「日本絵本研究賞」を授けるのだといい、このたび厳正な審査の結果、審査委員全員が一致してこれを推挙したそうな。そもそも小生は絵本学会の会員ですらなく、そんな賞を受ける資格があるのかも定かでない。
半信半疑のまま、今日その授賞式があるというので、絵本学会の大会が開かれる聖心女子大学まで出向いたら、本当に賞状と副賞の金一封を授与された。今でもまだ実感が湧かないのが正直なところである。褒められるのに馴れていないのだ。