この週末は体調が今ひとつ整わず、おまけに今にも雨が降り出しそうな怪しい空模様だが、意を決して外出することにした。ヴァイオリンとチェロの二重奏による面白そうな演奏会がある。それも同じ千葉市内というのだから、脚の痛みを少々堪えながら出向かねばならない。
La Pause Musicale Vol. 5
弦と遊ぶ なかやすみ 第五回
2023年5月14日(日)
開場14時/開演14時30分
桂 朋子 ヴァイオリン
ギヨーム・グロバール チェロ
ハインリヒ・ビーバー:
描写的なソナタ
アントニーン・ドヴォジャーク(クライスラー&グロバール編):
スラヴ舞曲 第三番
レオシュ・ヤナーチェク(イジー・カバート編):
弦楽四重奏曲 第一番《クロイツェル・ソナタ》より 第一楽章
エルヴィン・シュルホフ:
ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲
1. モデラート
2. ジンガレスカ
3. アンダンティーノ
4. モデラート
コールリッジ=テイラー・パーキンソン:
■ Walkin' All Over God's City Called Heaven
■ Louisiana Blues Strut -- A Cakewalk for solo violin
ジプシー伝統音楽メドレー(桂&グロバール編)
(アンコール)
アントニーン・ドヴォジャーク: 母が教え給えし歌
吉丸一昌&中田 章: 早春賦
ともにオランダ室内管弦楽団(Nederlands Kamerorkest)の奏者として十年を過ごしたお二人は、実生活でも睦まじいご夫婦だが、さまざまな音楽に即応する優れた技量とヴァーサタイルな才能の持ち主という共通点をもつ。親しみやすいトークを間に差し挟みながら、多彩な楽曲を次から次へ、いとも自然に繰り出すところが朋子&ギヨーム・デュオの真骨頂。そんなお二人の年に一度の里帰り公演なのである。
周知のとおりヴァイオリンとチェロの二重奏のために書かれた作品は多くない。否、滅多にないといってよい。誰もがすぐに思いつくのはラヴェルのソナタ、あとはコダーイとオネゲルの作品くらいか。その数の少なさがかえってお二人を奮起させたのか、彼らの演奏会はいつも選曲に工夫が凝らされ、一見すると脈絡がなさそうに思えて、熟慮を重ねてプログラムが練られていることがわかる。
今回の場合、まずエルヴィン・シュルホフの《ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲》がお二人のレパートリーに加わり、ここを起点にさまざまな方向に連想の枝葉を伸ばすようにプログラムを構成していったらしい。前半のドヴォジャークとヤナーチェクはシュルホフを導いた大先輩と恩師としてここに登場し、締めくくりのパーキンソンのブルージーな作品やジプシー民謡メドレーは、シュルホフが初期のジャズやジプシー音楽に影響されたことに因んだ選曲なのだろう。
・・・とここまでは事前にチラシを見て予測できたことだが、実際に演奏に接し、お二人のトークを耳にすると、張りめぐらされた網目さながらに、プログラム編成の妙がいろいろ浮かび上がる気がした。ドヴォジャークが音楽院長として渡米して現地の音楽に触れたのは、シュルホフの世代がジャズに共感する前触れだったのかもしれない、などとも考えた。正規の音楽教育を受けた黒人作曲家で、ハリー・べラフォンテやマーヴィン・ゲイのアレンジャーを務めたというコールリッジ=テイラー・パーキンソンの楽曲にも興味をそそられた。
一年ぶりに聴く朋子&ギヨーム・デュオは技術的に申し分ないばかりでなく、紡ぎ出す音楽が隅々まで愉悦感に満ちていた。そこにお二人のお人柄が滲む平易な語りが加わるので、凝りに凝った曲目編成にもかかわらず、客席にはほのぼのとリラックスした好もしい雰囲気が醸し出される。この会には欠かさず足を運ぶリピーターが多いというのも宜なるかな。
ひとつだけ、無いものねだりをするならば、シュルホフの二重奏曲にはジャズの要素が希薄なため、その点であとに続くパーキンソン作品への繋がりが実感できない憾みがあった。ヴァイオリンとチェロという制約はあるにせよ、何かもう一曲、小品でもいいからシュルホフのジャジーな楽曲が挿入されていたら、プログラムになおいっそう説得力が増したのではないか。その点だけが残念に思われた。