2012年秋に作成した「わが生涯の演奏会ベスト50」を少し改訂した。それからの十年の見聞から新たに三つを付け足し、同じ数だけ割愛してある。ご笑覧あれ。
01)
1968年5月3日(金・祝)
19:00– 東京・新宿、東京厚生年金会館大ホール
日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会
指揮/イシュトヴァーン・ケルテス
日本フィルハーモニー交響楽団
ピアノ/ロベール・カサドシュ曲目/
コダーイ: 組曲《ハーリ・ヤーノシュ》
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲 第五番
ドヴォジャーク: 交響曲 第九番 ❖生まれて初めて触れた実演。ケルテス指揮、カサドシュ独奏という豪華さ。《ハーリ・ヤーノシュ》冒頭の鮮やかな大音響が耳に残る。
02)
1969年12月13日(土)
15:00– 東京・内幸町、NHKホール
「NHK シンフォニーホール」公開録画
指揮/岩城宏之
NHK交響楽団
ヴィオラ/今井信子曲目/
ベルリオーズ: 序曲《ローマの謝肉祭》
ヒンデミット: シュヴァーネンドレーアー(白鳥の肉を焼く男)
チャイコフスキー: 交響曲 第五番❖葉書を出して抽籤に当たった旧NHKホールでの無料演奏会。この日が今井信子(芳紀二十六歳!)の日本デビューだった。
03)
1970年1月15日(木/祝)
14:00– 東京文化会館大ホール
ピアノ/マルタ・アルヘリッチ曲目/
バッハ: イギリス組曲 第二番
シューマン: ソナタ 第二番
リスト: 葬送曲
ラヴェル: 水の戯れ ほか❖アルヘリッチ初来日公演の初日。芳紀二十八歳。
04)
1970年4月21日(火)
19:00– 東京、日比谷公会堂
読売日本交響楽団 第53回名曲シリーズ「スイスの夕」
指揮/シャルル・デュトワ
読売日本交響楽団
フルート/オーレル・ニコレ
ソプラノ/リーザ・デラ・カーサ曲目/
オネゲル: 交響曲 第三番
マルタン/フルートと弦楽合奏、ピアノのためのバラード
リヒャルト・シュトラウス: 四つの最後の歌
リヒャルト・シュトラウス: ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯 ❖大阪万博に関連した「スイスの夕」。シャルル・デュトワの日本デビュー。デラ・カーサの《四つの最後の歌》が「眠りに就こうとして」から開始されたのに驚愕した。
05)
1970年5月21日(木)
19:00– 東京文化会館大ホール
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団曲目/
ベルリオーズ: 幻想交響曲
ラヴェル: 亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル: 組曲《ダフニスとクロエ》第二番❖大阪万博で来日したカラヤン&ベルリン・フィルの「フランス・プロ」。完全無欠のアンサンブルにただただ圧倒された。
06)
1971年11月6日(土)
19:00– 東京文化会館大ホール
協奏曲の夕
チェロ/ムスチスラフ・ロストロポーヴィチ
指揮/森 正
NHK交響楽団曲目/
ハイドン: チェロ協奏曲 ハ長調
シューマン(ショスタコーヴィチ編): チェロ協奏曲
ドヴォジャーク: チェロ協奏曲 ❖ロストロポーヴィチ全盛期(当時四十四歳)の協奏曲三本立て。壮絶そのもののドヴォジャークに言葉を失う。
07)
1972年3月14日(火)
18:30– 東京文化会館大ホール
都民劇場音楽サークル第197回定期公演
朗読/松本典子
フルート/オーレル・ニコレ、クリスティアーヌ・ニコレ
ヴィオラ/深井碩章
ハープ/ウルズラ・ホリガー
指揮/ハインツ・ホリガー ほか曲目/
ドビュッシー:
シランクス
《ビリティスの歌》
フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ ほか❖「バーゼル・アンサンブル」による珠玉のドビュッシー尽くし。朗読付き《ビリティスの歌》はホリガー指揮による。
08)
1972年3月23日(木)
19:00– 東京文化会館大ホール
日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会
指揮/オッコ・カム
日本フィルハーモニー交響楽団
フルート/オーレル・ニコレ
オーボエ/ハインツ・ホリガー
ハープ/ウルズラ・ホリガー 曲目/
サリエリ: フルートとオーボエのための協奏曲
武満徹: ユーカリプス
ブルックナー: 交響曲 第三番 ❖フジテレビの支援を絶たれ、孤立無援となった日本フィル渾身の凄演。《ユーカリプス》は1970年に次ぐ世界初演メンバーによる再演。
09)
1972年6月1日(木)
19:00– 東京・新宿、東京厚生年金会館大ホール
ショスタコーヴィチ交響曲第15番 本邦初演記念演奏会
指揮/ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
モスクワ放送交響楽団曲目/
ベルリオーズ: 幻想交響曲
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第十五番❖国外初演である大阪公演に続くショスタコーヴィチ《第十五番》東京初演。ロジェストヴェンスキーの巧緻な指揮に耳目が釘付け。
10)
1973年5月28日(月)
19:00– 東京文化会館大ホール
指揮/エヴゲニー・ムラヴィンスキー
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団曲目/
グリンカ: 歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲
プロコフィエフ: 組曲《ロミオとジュリエット》
ブラームス: 交響曲 第四番 ❖ムラヴィンスキー初来日東京公演二日目。プロコフィエフの剛毅、ブラームスの気品。途轍もない高度な達成に打ちのめされた。
11)
1975年5月16日(金)
19:00– 東京文化会館大ホール
ロシア=ソビエト音楽祭
指揮/ルドルフ・バルシャイ
モスクワ室内管弦楽団曲目/
プロコフィエフ(バルシャイ編): 束の間の幻影(十五曲)
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第十四番 ほか❖すでに慣れ親しんだショスタコーヴィチ《十四番》だが、これが日本初演。鋭利な切れ味のバルシャイ指揮に感嘆。
12)
1977年10月12日(水)
19:00– 東京文化会館大ホール
指揮/エヴゲニー・ムラヴィンスキー
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団曲目/
ウェーバー: 歌劇《オベロン》序曲
シューベルト: 交響曲 第八番《未完成》
チャイコフスキー: 《胡桃割り人形》抜粋 ❖ムラヴィンスキー三度目の来日公演にして、最も震撼させられた一夜。底知れない深みへと引き込まれる思い。
13)
1978年4月1日(土)、4月26日(水)
19:00– 東京文化会館大ホール、日比谷公会堂
作曲家の個展・小倉朗 新響 第79回演奏会 小倉朗交響作品展
指揮/芥川也寸志
新交響楽団
ヴァイオリン/都河和彦曲目/
(第一夜)
小倉 朗: 交響組曲 イ短調、オーケストラのためのブルレスク ほか
(第二夜)
小倉 朗: オーケストラのための舞踊組曲、ヴァイオリン協奏曲 ほか❖わが恩師である小倉朗の代表作を網羅した空前絶後の演奏会。その生涯の営みの重さを初めて思い知らされた。
14)
1987年12月11日(金)
20:00– 東京・駿河台、カザルスホール
ピアノ/ミエチスワフ・ホルショフスキ曲目/
バッハ: イギリス組曲 第五番
モーツァルト: ピアノ・ソナタ 第十二番 ほか❖九十五歳のホルショフスキ翁の至芸に深く頭を垂れた。カザルスホールの杮落し演奏会。
15)
1988年5月12日(木)
レニングラード、フィルハーモニー・ホール
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会
指揮/ワシリー・シナイスキー
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
ヴァイオリン/ヴィクトル・トレチャコフ曲目/
ボリス・チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲
ベートーヴェン: 交響曲 第三番《英雄》 ほか❖出張先のレニングラードでたまたま遭遇した定期公演。ムラヴィンスキー歿後わずか四か月とあって、亡き巨匠の薫陶の面影が随所に聴きとれた。「葬送行進曲」が胸に沁みた。
16)
1993年11月1日(月)
18:30– 東京・内幸町、イイノホール
バリトン/カミーユ・モラーヌ
ピアノ/花岡千春曲目/
シャブリエ: 肥えた七面鳥のバラード、蝉
フォーレ: ヴェネツィアの五つの歌
ラヴェル: 博物誌 ほか❖八十二歳を目前にして現役、余裕綽々と美声を披露するモラーヌ翁の驚くべき至芸に舌を巻いた。
17)
1993年12月8日(水)
19:00– ロンドン、クィーン・エリザベス・ホール
ソプラノ/シルヴィア・マクネアー
メゾソプラノ/アンネ・ソフィー・フォン・オッター ほか
指揮/ジョン・エリオット・ガーディナー
イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団曲目/
モンテヴェルディ: 歌劇《ポッペアの戴冠》❖初のロンドン滞在で遭遇した至高の《ポッペア》。甘美で峻厳で人間的。名歌手たちの饗宴に圧倒された。ライヴ収録されCD化。
18)
1995年6月23日(金)
ベルリン、コーミッシェオーパー
演出/ハリー・クプファー
指揮/ロルフ・ロイター曲目/
モーツァルト: 歌劇《フィガロの結婚》❖休暇で初めて訪ねたベルリンで遭遇。まるでドン・ジョヴァンニのようなアルマビーヴァ侯爵の造形に、クプファー演出の妙諦を知る。
19)
1996年11月28日(木)
20:00– ミュンヘン、ヘルクレスザール
ピアノ/アナトリー・ウゴルスキー曲目/
バッハ(ブラームス編): シャコンヌ
ムソルグスキー: 組曲《展覧会の絵》
スクリャービン: ソナタ 第二、第四番 ほか❖出張でミュンヘンに到着した晩、いきなり遭遇したウゴルスキーの至芸。全く類を見ない独創的な《展覧会の絵》に昂奮、夜も眠れず。
20)
1997年2月15日(土)
15:00– 彩の国さいたま芸術劇場小ホール
畠中恵子 クルト・ヴァイルほかを歌う
ソプラノ/畠中恵子
ピアノ/フベルトス・ドライヤー
話/岩渕達治曲目/
ワイル: ナイトシフトの相棒へ、アラバマ・ソング、スラバヤ・ジョニー ほか
武満徹: ワルツ ~《他人の顔》より ❖劇場の小スペースでのレクチャー付きリサイタル。畠中恵子の途轍もない力量に瞠目。岩淵教授のレクチャーも裨益するところ大。
21)
1997年2月22日(土)
18:00– 東京・天王洲、アートスフィア
ヴォーカル/マリアンヌ・フェイスフル曲目/
ワイル/アラバマ・ソング、スラバヤ・ジョニー
ジャガー、リチャーズ、オールダム/アズ・ティアーズ・ゴー・バイ
カワード/イフ・ラヴ・ワー・オール ほか❖アルバム《Twentieth Century Blues - An Evening in the Weimar Republic》(1996)に因んだ世界ツアーの東京公演。ドスの効いたしわがれ声から浮かぶ20世紀の光と影。ワイルとカワードが絶品!
22)
1997年3月1日(土)
19:00– 東京・渋谷、シアターコクーン
東京室内歌劇場 第28期 第88回定期公演
演出/市川右近
指揮/若杉弘
東京室内歌劇場、ソナスアンサンブル曲目/
モンテヴェルディ: 歌舞劇《花盛羅馬恋達引(ポッペアの戴冠)》❖古楽器演奏による正統的な上演ながら、演出を歌舞伎役者に委ね、艶やかな平安装束と和風の所作で繰り広げる驚くべき舞台。若杉弘と東京室内歌劇場による最高の到達点だった。
23)
1997年6月27日(金)
19:30– ロンドン、ナショナル・シアター(リットルトン・シアター)
演出/フランチェスカ・ザンベッロ
主演/マリア・フリードマン ほか曲目/
ワイル: ミュージカル《暗闇の女》❖休暇で訪れたロンドンで遭遇した米国時代のワイル音楽劇の最高傑作。舞台は隅々まで洗練され、演劇としての高度な達成に舌を巻く。
24)
1997年10月13日(月)
21:00– パリ、テアトル・モリエール(メゾン・ド・ラ・ポエジー)
語り/ユーグ・キュエノー
テノール/ジャン・ベリアール
ピアノ/ビリー・エイディ 曲目/
サティ: 《ソクラテス》
プーランク: 《仔象のババール》 ❖急なパリ出張時、九十五歳のユーグ・キュエノーが舞台に立つと知って駆けつけた。颯爽と登場し、矍鑠と《ババール》を朗読する翁の血色のいい姿に圧倒された。
25)
1997年10月14日(火)
19:30– パリ、オペラ座(パレ・ガルニエ)
演出/ロバート・ウィルソン
ソプラノ/ドーン・アップショー
バリトン/ジョゼ・ヴァン・ダム ほか
指揮/ジェイムズ・コンロン
パリ国立オペラ座管弦楽団・合唱団曲目/
ドビュッシー: 歌劇《ペレアスとメリザンド》❖生まれて初めて実見した《ペレアス》の舞台はあらゆる想像を超えて革新的。何もない舞台に象徴主義の現代的再生を実感。ロバート・ウィルソンの天才にひれ伏した一夜。
26)
1997年10月15日(水)
19:30– パリ、オペラ・バスティーユ
演出/グレアム・ウィック
指揮/ジェフリー・テイト
パリ国立オペラ座管弦楽団・合唱団曲目/
ワイル: 歌劇《マハゴニー市の興亡》❖ガルニエ宮での驚愕の《ペレアス》の翌日はバスティーユで《マハゴニー》。練り上げられた舞台に震撼させられ、背筋が凍り着いた。
27)
1997年10月17日(金)
21:00– パリ、ラ・ペニッシュ・オペラ
演出/ミレイユ・ラロッシュ
出演/ベアトリス・クラモワ、リオネル・パントル ほか
音楽監督/ジャン=クロード・ペヌティエ曲目/
ルイ・ベーツ: 喜歌劇《S. A. D. M. P.》
クロード・テラス: 喜歌劇《秘密の箱》❖サン=マルタン運河に浮かぶ平底船(ペニッシュ)の忘れられたオペレッタ二題。ピアノ伴奏による数十年ぶりの復活上演をスノッブな五十人の観衆と享受する密やかな歓び。
28)
1998年6月4日(木)
19:45– ロンドン、バービカン・シアター
"bite 1998"
演出/トリーシャ・ブラウン
指揮/ルネ・ヤーコプス
コンチェルト・ヴォカーレ、コレギウム・ヴォカーレ ほか曲目/
モンテヴェルディ: 歌劇《オルフェオ》❖正統的な古楽器演奏による上演だが、演出は現代的なモダン・ダンスによるもの。トリーシャ・ブラウンが歌手たちを特訓し、見事な振付を施した劃期的な舞台だった。
29)
1998年6月5日(金)
19:30– ロンドン、コクレイン・シアター
"The BOC Covent Garden Festival of Opera & Music Theatre"
演出/イアン・バートン
指揮/エティエンヌ・シーベンス
プロメテウス・アンサンブル曲目/
ワイル:
《マハゴニー・ソングシュピーゲル》
《ハッピー・エンド》❖世にも珍しいブレヒト=ワイルの二本立て。簡素な舞台装置によるミニマルな上演だったが、寸鉄人を刺す鋭い演出と歌唱。
30)
1999年6月3日(木)
19:30– ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
指揮/リチャード・ヒコックス
フィルハーモニア管弦楽団
メゾソプラノ/アンネ・ソフィー・フォン・オッター曲目/
エルガー:
序曲《南国にて(アラッシオ)》
歌曲集《海の絵》
エニグマ変奏曲(第一版)❖名匠ヒコックス指揮による極上のオール・エルガー・プロ。フォン・オッター歌唱による《海の絵》のクールな味わいに痺れた。
31)
1999年6月4日(金)
19:30– ロンドン、コラシーアム
イングリッシュ・ナショナル・オペラ公演
演出/ジョナサン・ミラー
指揮/ノエル・デイヴィス
イングリッシュ・ナショナル・オペラ管弦楽団・合唱団曲目/
ヴェルディ: 歌劇《リゴレット》❖「読み替え」成功例として夙に名高いジョナサン・ミラー演出の《リゴレット》を本場で鑑賞。17世紀のマントヴァ宮廷が20世紀ニューヨークのマフィアの殺人劇として成立する奇蹟を目の当たりに。
32)
1999年6月11日(金)
19:00– ロンドン、ギルドホール・スクール・シアター
演出/ダニエル・スレイター
指揮/ジェイソン・レイ
ギルドホール音楽学校管弦楽団・合唱団・独唱者曲目/
フォーレ: 歌劇《ペネロープ》❖一か月のロンドン滞在なので音楽学校の卒業公演まで拝見。稀少なフォーレの歌劇の完全上演。歌唱も演技もプロ並みで舌を巻いた。
33)
1999年6月14日(月)
13:00– ロンドン、ウィグモア・ホール
"BBC Radio 3 Lunchtime Concert"
ソプラノ/シルヴィア・マクネアー
ピアノ/テッド・テイラー曲目/
ガーシュウィン: サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー、シャル・ウィー・ダンス、バイ・シュトラウス、ゼイ・キャント・テイク・ザット・アワイ・フロム・ミー ほかワイル: マイ・シップ ~《暗闇の女》ロジャーズ: ハロー、ヤング・ラヴァーズ ~《王様と私》
❖きっかり一時間の小プログラムながら、マクネアー嬢の絶妙な歌とMC、素敵な立ち居振る舞いにただもううっとり。BBCがラジオ中継し、のちにCDとしても発売された。
34)
2000年5月17日(水)、18日(木)
19:30– ロンドン、コヴェント・ガーデン王立歌劇場
ロイヤル・バレエ団公演
"The Diaghilev Legacy"
指揮/アンドレア・クィン
コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
曲目/
プーランク: 《牝鹿》
ドビュッシー: 《牧神の午後》《遊戯》
ストラヴィンスキー: 《火の鳥》
❖コヴェントガーデンで観た「バレエ・リュス」四本立て。すべて往時の振付と舞台装置を彷彿とさせるもの。《遊戯》は初の復元上演。
35)
2001年1月14日(日)
19:00– サンクト・ペテルブルグ、フィルハーモニー・ホール
指揮/パーヴォ・ベリルンド
サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
ヴァイオリン/樫本大進
曲目/
メンデルスゾーン: 序曲《フィンガルの洞窟》
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲
シューベルト: 交響曲 第七番 (大交響曲)
❖出張でペテルブルグに着いた当夜にたまたま出くわした。ベリルンド(ベルグルンド)の指揮が老練の極みで、心を揺さぶられた。外は凍てつく極寒の夜。
36)
2001年1月20日(土)
19:30– パリ、シャンゼリゼ劇場
演出・指揮/ジャン=クロード・マルゴワール
ラ・グランド・エキュリエ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ
曲目/
モンテヴェルディ: 歌劇《ポッペアの戴冠》
❖出張の最後に滞在したパリで遭遇できたマルゴワール指揮による《ポッペア》上演。簡素な白の舞台装置を活かした美しい舞台だった。
37)
2003年5月2日(金)
18:30– 水戸芸術館コンサートホールATM
メゾソプラノ/アンネ・ソフィー・フォン・オッター
ピアノ/ベンクト・フォシュベリ
曲目/
マーラー: この歌を創ったのは誰、高い知性への讃歌、浮世の暮らし、美しい喇叭の鳴り響くところ ~《子供の魔法の角笛》
ワイル: ナナの歌、海賊ジェニー、赤いローザ、私の舟 ほか
❖巧緻に歌い分けられたマーラー。肺腑を抉るようなワイル。絶頂期のフォン・オッターの凄い歌の力を見せつけられた一夜。すぐ後ろに吉田秀和館長ご夫妻が坐ったのにも緊張した。
38)
2003年8月13日(水)
14:30– ロンドン、ドルーリー・レイン王立劇場
演出/トレヴァー・ナン
曲目/
フレデリック・ロウ: ミュージカル《マイ・フェア・レディ》
❖モスクワ行きの途中で数日ロンドンに滞在したら《マイ・フェア・レディ》再演に遭遇、しかも1958年の英国初演の地ドルーリー・レイン王立劇場でのロングラン。見事な舞台に酔って外に出ると、そこは劇中と同じコヴェントガーデン! 思わず立ち眩みした。
39)
2006年9月24日(日)
11:00– 東京・荻窪、名曲喫茶ミニヨン
「カフコンス」第30回 「ケックランと女優たち」
フルート、ピッコロ/渡辺玲奈
ソプラノ/渡辺有里香
サクソフォン/伊藤あさぎ
ピアノ/川北祥子
曲目/
ケックラン:《リリアンのアルバム》第一集
ケックラン: ジーン・ハーロウの墓碑
❖サロン・コンサート「カフコンス Cafconc」が企てた夢の二本立て公演。わずか四十五分でシャルル・ケックランと映画との深い縁を鮮やかに証拠だてた。
40)
2007年3月25日(日)
14:30– 東京・赤坂、紀尾井ホール
オーケストラ・ニッポニカ 第11回演奏会
深井史郎作品展 生誕100年記念
指揮/本名徹次
オーケストラ・ニッポニカ
独唱/星川美保子(s)、穴澤ゆう子(a)、谷口洋介(t)、浦野智行(bar)
合唱/東京クラシカルシンガーズ
曲目/
深井史郎:
パロディ的な四楽章 (1937年版)
十三の奏者のためのディヴェルティスマン―宮沢賢治の童話による―
《平和の祈り》四人の独唱者及び合唱と大管弦楽のための交声曲
❖近代日本の管弦楽曲の発掘に尽力する「オーケストラ・ニッポニカ」渾身の企て。深井史郎の先駆的な才能を鮮やかに印象づけた。
41)
2007年9月25日(火)
19:30– 東京・錦糸町、すみだトリフォニーホール
トリフォニーホール「ゴルトベルク変奏曲2007」
アコーディオン/ミカ・ヴァユリネン
曲目/
バッハ: ゴルトベルク変奏曲
❖ぎりぎりに開催を知り、当日券で聴く機会を得た。驚くほど自在で、しかも凝縮した音楽。ヴァユリネンの妙技に圧倒され、アコーディオンがバッハの真髄を捉える楽器であると確信した。
42)
2008年5月16日(金)
19:30– ロンドン、セント・ジョンズ、スミス・スクエア
"Lufthansa Festival of Baroque Music 2008"
指揮/フィリップ・ヘレヴェッヘ
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
ソプラノ/ドロシー・ミールズ
アルト(男声)/ダミアン・ギヨン
テノール/ヤン・コボウ
バス/シュテファン・マクリード
曲目/
バッハ:
復活祭オラトリオ BWV249
カンタータ 第六十八番 《かくも神は世を愛し給えり》
昇天祭オラトリオ BWV11
❖所用で出向いたロンドンで「ルフトハンザ・バロック音楽祭」に遭遇。ヘレヴェッヘとその手兵による至純のバッハ。少人数コーラスの品格と美にしたたか打たれた。
43)
2010年11月30日(火)
19:30– ロンドン、コラシーアム
イングリッシュ・ナショナル・オペラ公演
原作/ミハイル・ブルガーコフ "Собачье сердце" (1925)
台本/チェーザレ・マッツォニス
英訳/マーティン・ピカード
演出/サイモン・マクバーニー
美術/マイケル・レヴァイン
衣裳/クリスティナ・カニンガム
照明/ポール・アンダソン
指揮/ギャリー・ウォーカー
イングリッシュ・ナショナル・オペラ管弦楽団・合唱団
出演/
プレオブラジェンスキー教授=スティーヴン・ペイジ
助手ボルメンターリ=リー・メルローズ
シャリコフ=ピーター・ホアー
犬シャリク(愉快な声)=アンドルー・ウォッツ
犬シャリク(不愉快な声)=エレーナ・ワシーリエワ
料理女ペトローヴナ=エレーナ・ワシーリエワ
女中ジーナ=ナンシー・アレン・ランディ
シヴォンデル=アラスデア・エリオット ほか
人形操演/
ロビン・ビア、フィン・コールドウェル、ジョシー・ダクスター、マーク・ダウン
曲目/
アレクサンドル・ラスカートフ:
歌劇《犬の心臓 A Dog's Heart》
❖ブルガーコフの小説を忠実にオペラ化したラスカートフの新作。登場人物たちの形象化の卓越、主人公の犬をマリオネットで操る技術、背景をなす時代や極寒のモスクワを出現させるプロジェクション・マッピングなど、見どころに富む優れた英国初演だった。
44)
2010年12月8日(水)
19:30– ロンドン、クィーン・エリザベス・ホール
"Noëlle Mann Memorial Concert"
ピアノ/バーバラ・ニスマン
ピアノ/ドミートリー・アレクセーエフ
チェロ・指揮/アレクサンドル・イワーシキン ほか
曲目/
プロコフィエフ:
ピアノ・ソナタ 第三番
チェロ・ソナタ
ピアノ・ソナタ 第六番
カンタータ《七人、彼らは七人》 ほか
❖プロコフィエフ財団とそのアーカイヴの責任者ノエル・マン女史の追悼演奏会。高水準の演奏ばかりだが、とりわけアレクセーエフの第三ソナタ、イワーシキンのチェロ・ソナタに強く打たれた。
45)
2011年4月15日(金)
19:00– 東京・銀座、王子ホール
フェリシティ・ロット・ソプラノ・リサイタル
ソプラノ/デイム・フェリシティ・ロット
ピアノ/グレアム・ジョンソン
曲目/
プーランク:《こんな昼、こんな夜》(全九曲)
メサジェ: 私には恋人がふたり ~《仮面の恋》
カワード: イフ・ラヴ・ワー・オール、ピッコラ・マリーナの酒場で ほか
❖大震災のわずか一か月後、フェリシティ・ロットが敢行した来日公演。予定の演目とはいえ、すべてが胸に深く迫る。カワードの《もし愛が総てなら》で万感胸に迫ったデイムが目に涙を浮かべたこと、アンコールのシュトラウス《明日》の前にグレアム・ジョンソンが「今日よりもよい明日がきっと来る」と語った言葉を忘れないだろう。
46)
2011年4月17日(日)
19:00– 東京・赤坂、サントリーホール
ギドン・クレーメル トリオ・コンサート 2011
ヴァイオリン/ギドン・クレーメル
ピアノ/ワレリー・アファナシエフ
チェロ/ギードレ・ティルヴァナウスカイテ
曲目/
シュニトケ: ショスタコーヴィチ追悼の前奏曲
バッハ: シャコンヌ
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ 第三番
ショスタコーヴィチ: ピアノ三重奏曲 第二番 ほか
❖これまた大震災から一か月後の公演。参加不能となったグルジアのピアニストの代役としてアファナシエフが来日し、予想だにしない凄演が実現した。
47)
2012年1月18日(水)
19:30– ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
プロコフィエフ・フェスティヴァル "Prokofiev: Man of the People?"
指揮/ヴラジーミル・ユロフスキー
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ/スティーヴン・オズボーン
曲目/
プロコフィエフ:
交響的歌曲
ピアノ協奏曲 第五番
交響曲 第六番
❖ヴラジーミル・ユロフスキーが企てた「プロコフィエフ・フェスティヴァル」を聴くために訪英した。その白眉がおそらくこれだった。《第六》フィナーレの激越な終結部に言葉を失った。
48)
2017年5月21日(土)
11:00– 東京・本郷、金魚坂
「カフコンス」第126回「オーヴェルニュの山にて」
ソプラノ/渡辺有里香
ヴァイオリン/本郷幸子
ピアノ/川北祥子
曲目/
カントルーブ:
《オーヴェルニュの歌》 より
■ バイレロ Baïlèro
■ 羊飼いの娘よ、もしお前が僕を好きなら Postouro sé tu m'aymo
■ 行け! 犬よ、行け! Tè l’co tè !
ヴァイオリンとピアノのための 《山にて Dans la montagne》
❖この日の「カフコンス」も忘れがたい。馴染み深い《オーヴェルニュの歌》とともに、未知の秘曲《山にて》の素晴らしさに酔わされた。
49)
2019年7月23日(火)
19:00– 東京・巣鴨、東音ホール
ピティナ・ピアノ曲事典 公開録音コンサート
「ママになったばかりの西本夏生と35年前にママになった青柳いづみこが奏でる子供たちへのまなざし」
ピアノ/青柳いづみこ、西本夏生
曲目/
フォーレ: 子守唄 ~組曲《ドリー》
カプレ:《小さなこといろいろ》
フランセ:《ルノワールの十五人の子供の肖像》
ラヴェル:《マ・メール・ロワ》(朗読付き)
フローラン・シュミット:《小さな眠りの精の一週間》
❖青柳いづみこと西本夏生の目覚ましい連弾を間近に聴く。すべての楽曲が「子供」で底通し、鍾愛のフローラン・シュミット《小さな眠りの精の一週間》で締めくくられる夢の一夜となった。
50)
2022年12月6日(火)
19:00– 東京・赤坂、サントリーホール
堀米ゆず子&ヴァレリー・アファナシエフ
ヴァイオリン/堀米ゆす子
ピアノ/ワレリー・アファナシエフ
曲目/
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第三番&パルティータ第三番
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第一番《雨の歌》
❖ともにブリュッセルのコンクール覇者ながら堀米とアファナシエフはこれが初共演だという。それなのに、この深いところで共鳴し合う音楽はどこから生まれるのか。妥協は全くなく、互いを尊重することで自己を表明できる二人は真の巨匠だ。