たまたま所用で千葉駅近辺に出向いたついでに佐倉まで足を延ばし、DIC川村記念美術館へ赴いた。今日(10月8日)から始まった「マン・レイのオブジェ」展を観るのが主目的だが、個人的にはむしろ常設展示の一郭をなす小企画「ジョゼフ・コーネル――新収蔵品を迎えて」が観たかった。新たに加わったのは《キルケとその愛人たち》なる小さなコラージュ作品である。
ジョゼフ・コーネル
キルケとその愛人たち(ドッソ・ドッシ)
Circe and Her Lovers (Dosso Dossi)
図版の切り抜き、塗料、メゾナイト板
21.2 × 28.9 cm
この作品はたいそう懐かしい。1992年から翌年にかけて開催された日本初のコーネル回顧展にも、2019年にここでやった三度目のコーネル展にも並んだ、馴染み深いコラージュの一点だからである。タイトルにあるキルケとはギリシア神話に登場する魔女で、誘き寄せた愛人の男どもを魔法の力で獣に変身させた。
コーネルは16世紀にフェッラーラ宮廷で活躍した画家ドッソ・ドッシ(Dosso Dossi)の油彩画《風景のなかのキルケとその愛人たち Circe and Her Lovers in a Landscape》(1525年頃、ワシントン、ナショナル・ギャラリー)がいたくお気に召し、その複製図版を組み入れたコラージュを連作した。本作品ではドッシ作品のキルケとその周辺を残して、他の部分は白い顔料で塗り潰し、そこにコーネル好みの円弧を部分的に刻み、人為的な罅割れを生じさせたもの。ミニマルな風情を醸す蠱惑的なコラージュ作品である。
1992–93年の回顧展カタログの記載によれば、当時の所蔵者は東京・京橋にある老舗の古美術商「池内美術」。横田茂ギャラリー経由で日本にもたらされたコーネルの優品が国外に流出することなく、この美術館に収まったのは慶賀なことだ。これでDIC川村記念美術館が所蔵するコーネル作品は全十七点(箱七点、コラージュ十点)となった。