青柳いづみこの最新アルバム。正式な発売日はこの10月上旬だというが、「CD・書籍刊行記念」と銘打たれた昨日(9月24日、東京・白寿ホール)のリサイタル会場で(当然ながら)先行販売されていたので、迷わずにゲット。これは聴かずばなるまいと直覚したのだ。
帯の惹句を書き写す。「温故知新――戦後日本のピアノ音楽をリードした安川加壽子の選曲を、1927年製エラール・ピアノで聴く。」
《昔の歌 Chanson d'autrefois 安川加壽子門下生発表会より》
《村物語(村人たち) 子供のための小品》
■ 1. チロル風の円舞曲
■ 2. スタッカート
■ 3. 田舎風
■ 4. ポルカ
■ 5. 小さなロンド
■ 6. コーダ
マラン・マレ:
ロンドー (伝リュリ: ロンドー形式のガヴォット)
アンリ・バロー:
《子供たちへの物語》
■ 1. エル・ドラドの国へ
■ 2. ニャムニャムの野営
■ 3. 露台の王女
■ 4. パンフィル船長のクラヴサン
ルイ=クロード・ダカン:
郭公 ~《クラヴサン曲集》
アルフレード・カゼッラ:
《子供のための十一の小品》
■ 1. 前奏曲
■ 2. 全音階の円舞曲 (白鍵で)
■ 3. カノン (黒鍵で)
■ 4. ボレロ
■ 5. クレメンティ讃
■ 6. シチリアーナ
■ 7. ジーガ
■ 8. メヌエット
■ 9. カリヨン
■ 10. 子守唄
■ 11. ギャロップ~終曲
フランソワ・クープラン:
■ 小さな風車 ~《クラヴサン曲集》第三巻
■ 修道女モニック ~《クラヴサン曲集》第三巻
ガブリエル・ピエルネ:
《愛しい人たちへのアルバム》作品14
■ 1. パストラール
■ 2. ファランドール
■ 3. 守護天使の集い
■ 4. 小さなガヴォット
■ 5. 昔の歌
■ 6. 鉛の兵隊の行進曲
ジャック・デュフリー:
ラ・ヴィクトワール ~《クラヴサン曲集》第二巻
フランシス・プーランク:
《クロード・ジェルヴェーズによるフランス組曲》
■ 1. ブルゴーニュ地方のブランル
■ 2. パヴァーヌ
■ 3. 小さな軍隊行進曲
■ 4. 嘆き
■ 5. シャンパーニュ地方のブランル
■ 6. シシリエンヌ
■ 7. カリヨン
ラザール=レヴィ:
《子守唄》(安川加壽子に)
ピアノ/青柳いづみこ
2021年11月4−5日、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
写真/発表会の青柳いづみこ(1961年12月23日、日仏会館ホール)
コジマ録音 ALM Records ALCD-7285 (CD, 2022)
これは素晴らしいアルバムだ。収録曲すべては戦後、安川加壽子が教え子の少年少女たちの発表会のために用意したピアノ曲ばかり。いわば教育的な音楽なのだが、その選曲たるや、18世紀のクラヴサン曲と20世紀前半(安川にとっての同時代だ)のフランス音楽を分け隔てなく集めた、きわめて高度に芸術的なものだ。これで勉強した子供たちが心底羨ましい。青柳いづみこはその一人だったのである。
曲目の大部分は昨日のリサイタルで馴染んでいたので驚きはなく、むしろ安心して聴き惚れたのであるが、昨日のホール据え付けのスタインウェイとは違い、ここで奏されるのは、1927年製造のエラール社のピアノである。安川加壽子の生誕百周年を壽ぐ記念アルバムに、これほど相応しい同時代の楽器はまたとあるまい。
このエラール社のピアノの独特の音をどう形容すればいいのか。とにかく響きが美しく、いや、美しいというばかりでなく、18世紀のクラヴサン曲にも、20世紀の近代ピアノ曲にも、等し並みに似つかわしくフィットするところが素晴らしい。もともとフランス音楽にはそういう連続性があるといえばそれまでだが、この百年前のピアノで弾くと、両者がまさに地続きの音楽だと、どちらも同じ感性の発露なのだと、すぐさま実感できるだろう。
青柳さんは恩師の生誕百年に際して、若き日にご自身も参加された門下生発表会での曲目ばかりで新しくアルバムを編む構想を抱いたとき、この「安川先生の五歳下」の1927年製エラール・ピアノの存在がまず脳裏に閃いたという。滋賀県のびわ湖ホールのロビーに置かれていた、あの歴史的な名器こそが録音に相応しいだろうと。
なるほど、安川加壽子やその師匠ラザール=レヴィは、まさしくこのピアノの音色でフランス音楽を捉えていたのだ――そう感じ取れるのが、今回の世にも珍しい「発表会」アルバムなのである。
小生が永く愛してきたプーランクの小品集《村人たち Villageoises》——発表会で安川先生が用いた呼称は《村物語》――がアルバム冒頭に置かれ、いともノンシャランに愉しげに、幸福な少女時代を慈しむように奏でられるのを聴いて、嬉しさで涙がこみ上げた。