冴えない小雨混じりの曇天だが、急ぎの仕事を終えて胸の閊えが降りた心地になる。心は晴れ模様なのだ。そこでこの一枚を。早くに入手しておいたのに、聴くべき時を見失ったまま二か月が虚しく過ぎた。
"20th Century Foxtrots Vol.4 - France & Belgium"
▣ フランス篇
カミーユ・サン=サーンス:
1. タンゴ ~劇的情景《ローラ》作品116(1900)
エリック・サティ(アンス・ウールディーヌ編):
2. エンパイア座の歌姫(有名歌によるアメリカ風間奏曲)(1904)
3. ラグタイム・パラード ~バレエ《パラード》(1917/1919)
ダリユス・ミヨー:
4. 柔らかキャラメル 作品68(1920/121)
アンリ・クリケ=プレイエル:
5, 6. 二つのブルーズ*(1922/24)
アンドレ・メサジェ:
7. タンゴ* ~オペレッタ《仮面の恋人》(1923)
ダニエル・エリクール:
8. ラグ形式による小品*(1924)
マニュエル・ロザンタール:
9. ラグ(第六曲)~八つのバガテル(1924)
ガブリエル・ピエルネ:
10. 少女たち(フランスのブルーズ)*~《ミュージック・ホールの印象》作品47(1927)
レナルド・アーン:
11. チャールストン* ~オペレッタ《愛する時》(1926)
12. ロス・エナモラドス、タンゴ・ハバネラ* ~《あるレヴュー》(1926)
デジレ=エミール・アンゲルブレシュト:
13. 小さな黒人、フォックス=トロット* ~歌劇《鐘楼の悪魔》(1926)
モーリス・ラヴェル(アンリ・ジル=マルシェックス編):
14. 五時のフォックス=トロット ~歌劇《子供と魔法》(1920–25/1927)
ジャン・ヴィエネール:
15. ハーレム(1929)
16. ホワイト・ヴィレッジ・ワンステップ* ~オペレッタ《黒人の家のオリーヴ樹、または白い街》(1926)
ピエール=オクターヴ・フェルー:
17. バッカスの巫女、ブルーズ ~十三の舞曲(1929)
メル・ボニ:
18. ボストン円舞曲、またはヴァルス・ラント(第三曲)* ~五つの小品 作品119(1928)
ジャック・ブノワ=メシャン:
19. ラグ=夜想曲(第五曲)* ~《エカトゥール》(1923–27/1930)
ジョルジュ・オーリック:
20, 21. 二つの小品(マジック=パーク、フォックス=トロット/タンゴ=夜想曲) ~映画《自由を我等に》(1931)
ピエール・ヴェローヌ:
22. ビアリッツ=フォックス* ~映画《ビアリッツの女王》(1934)
ジャック・イベール:
23. ブルレスク=フォックス* ~映画《マルテの家》(1938)
アンリ・デュティユー:
24. フォックス* ~映画《カドランのカフェ》(1947)
▣ ベルギー篇
ユベール・ムートン:
25. ジャンボのトゥー=ステップ*(1911)
ジャン・レンセン:
26. シベリア、フォックス=トロット*(1923)
オーギュスト・ルイ・バイエンス:
27. ジャズ幻想曲*(1926)
クレマン・ドゥーセ:
28. モンパルナス*(1931)
29. ウィーンの風*(1931)
エマニュエル・ドゥルレ:
30. 悲劇的なタンゴ(1943)
* =世界初録音
ピアノ/ゴットリープ・ヴァリッシュ
2021年2月25–27日、ケルン、西ドイツ放送局クラウス・フォン・ビスマルク・ザール
Grand Piano GP855 (CD, 2022)
アルバム予告編
20世紀に作曲されたピアノ用のフォックストロットを国別・地域別に網羅したアンソロジーもはや第四集、いよいよ本丸のフランス(含むベルギー)編の登場である。奏者はこれまでと同様、ウィーン生まれの名手ゴットリープ・ヴァリッシュである。
フランス産フォックストロット(ラグタイムやブルーズも含む)と聞いて、誰もがすぐ思い出すラヴェルの《五時のフォックストロット》やミヨーの《キャラメル・ムー》、パリの酒場「屋根の上の牡牛」の専属ピアノ奏者ヴィエネールとドゥーセの作品は無論のこと、サン=サーンスからデュティユーに至る有名無名の作曲家が拵えたジャズふう小品(広義のジャズ=米国起源のダンス・ミュージック)をこれでもかと繰り出す。実にその数三十、しかも過半は世界初録音だという。ほとんどが知らない曲なのに、どれも聴き憶えがある気がするのは、それだけこの種の作品が20世紀前半のフランスで愛され受容され、血肉化していたためだろう。これらを抜きに音楽史は語れない。
そこはかと漂う無上の愉悦感、汲めども尽きせぬ興趣において、フランス近代音楽を愛好する者には必携のアルバムといえよう。願わくはこれら魅惑的な楽曲に合わせて軽やかにステップを踏みたい。