明けて今日(4月10日)はリトアニアの画家・作曲家ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875–1911)の命日である。不遇な境涯のなかで早世した天才芸術家を偲ぶのに、まさにうってつけの近作アルバムが手元にある。
"Mikalojus Konstantinas Čiurlionis: On the Harp Strings"
チュルリョーニス(ヨアナ・ダウニーテ編):
1. 前奏曲 嬰ヘ長調 《アンゲルス・ドミニ》 VL 184(1901)
2. 夜想曲 第二番 嬰ハ短調 VL 183(1901)
3. 前奏曲 ヘ長調 ―イ短調 VL 188(1901)
4. 献呈 変ロ長調 VL 169(1899)
5. エレジー ニ短調 VL 191(1901)
6. マズルカ ロ短調 VL 234(1902)
7. 《私はヘンルーダの種を蒔いた》VL 179(1900)*
8. 夜想曲 第一番 嬰ヘ短調 VL 178(1900)
9. パストラル 変ニ長調 VL 187(1901)*
10. ユモレスク ト短調 VL 162(1899)*
11. 前奏曲 変ニ長調 VL 253(1904)*
12. 即興曲 嬰ヘ短調 VL 181(1900)*
13. 子守唄 ト長調 VL 242(1903)*
14. 前奏曲 ニ長調 VL 305(1906)*
15. 楽興の時 イ長調 VL 246(1903)*
16. 前奏曲 ロ長調 VL 186(1901)
ハープ/ヨアナ・ダウニーテ
2018年2月8日、6月26日*、イグナリナ、パリエシウス館スタジオ
Naxos 8.579108 (CD, 2022)
チュルリョーニスが生涯で遺した作品は、少数の管弦楽曲、民謡編曲を中心とした合唱曲、数多くのピアノ小品(しばしば「前奏曲」と総称された)がほとんどすべてで、ハープのためのオリジナル曲はひとつもない。当アンソロジーに集められた小品は、ことごとくピアノ曲から編曲されたものだ。編曲者はここでハープを奏しているヨアナ・ダウニーテ(Joana Daunyté)自身である。
当アルバムのライナーノーツで、彼女はこれらの編曲の意図を次のように記している。
音楽的直観に促されるまま、私がチュルリョーニスの初期のピアノ作品をハープ用に編曲したのは、この偉大なリトアニアの芸術家の思い出に、親愛の情をこめて献呈を捧げるためだった。これらの編曲はリトアニアのハープ音楽のレパートリーを広げるとともに、チュルリョーニスに全く新たな演奏形態をもたらすことになろう。この作曲家のピアノ音楽に深い敬意を抱きつつ、そこに接近することで、私は比類ない体験を味わった。チュルリョーニスの語法に導かれながら、これらの作品に新たな光を当てることが私の狙いなのだった。
チュルリョーニス研究の第一人者で、自らもピアニストとして決定的名演の数々を成し遂げたヴィータウタス・ランズベルギス教授は、このディスクに寄せた一文で、次のような称賛の辞を述べている。
音楽の世界で、ハープの象徴主義は比類のないものだ。この楽器は古代から存在し、弦の響きが好ましい音を奏でることを教えてきた。ヨアナ・ダウニーテが録音したチュルリョーニスの音楽を耳にして、私はこの古い時代からの結びつきを理解した。チュルリョーニスの絵画のなかに、しばしばハープのささやかな外形がシルエットして描かれ、自然の形象からおずおずと姿を現すのが発見される。この表徴は私たちに告げている――あらゆるものは音楽だ、と。この録音により、私たちはそれを聴き取る機会を与えられたのである。
あとはこのアルバムにじっくり耳を傾けるだけだ。どの曲も素晴らしく魅力的だ。チュルリョーニスのピアノ曲の秘かな憧れが、穏やかで玄妙な響きがそっくりそのままハープに移し替えられている。
選曲にあたって、ダウニーテ嬢がランズベルギス教授の録音に強く触発されたのは明らかだろう。なにしろ、ここに集められた十六作品のうち七曲(VL 169, 178, 181, 184, 186, 187, 188)までが教授の不滅のアルバム "Born of the Human Soul - Works for solo piano" (EMI, 1998) に収められているのだから。