この年齢になるとクリスマスの贈物を期待できない。サンタクロースも素通りである。だから自分で自分にプレゼントすることにした。今日たまたま届いたCDボックスがそれである。
昨年末コロナ禍で惜しくも亡くなった中国の伝説的ピアニスト傅聰(フー・ツォン)が若き日に米Westminsterに録音した全アルバムを初めてCD覆刻したものだ。これほどの名演の数々が長らく等閑視され、数十年も入手不能だったとは信じられない思いだ。
"Fou Ts'ong 傅聰 Complete Westminster Recordings"
CD 3 ベートーヴェン: ソナタ 第三十&三十一番
CD 4 シューベルト: ソナタ 第十四&二十一番
CD 8 モーツァルト: ピアノ協奏曲 第九&十二番
CD 9 モーツァルト: ピアノ協奏曲 第二十五&二十七番
豪Eloquence 484 3712 (CDs, 2021)
さあ、どれを先に聴くべきか迷うところだが、まずはLPでさんざん愛聴したモーツァルト、ショパン、そして極め付きのスカルラッティあたりから始めようか。
”Introducing FOU TS’ONG - MOZART: PIANO CONCERTI"
1960年11月、ウィーン、コンツェルトハウス、モーツァルト=ザール
Westminster WST 14136 (1961)
"Introducing FOU TS’ONG - CHOPIN: 4 Ballades, etc."
1960年11月、ウィーン、コンツェルトハウス、モーツァルト=ザール
Westminster WST 14137 (1961)
"Scarlatti: Sonatas - Fou Ts'ong"
1961年7月、ウィーン、コンツェルトハウス、モーツァルト=ザール
Westminster WST 17015 (1962)
三枚とも耳にするのは久しぶりだが、記憶していたとおり、稀代の名演である。とりわけモーツァルトの《二十七番》とスカルラッティのソナタの数々。どちらもクララ・ハスキルの牙城に迫る純度の高さ。恬淡として無欲で、それでいながら聴く者の心を捉えて放さない。もう死ぬまで座右に置いて聴き続けるつもりだ。