これまた最近、一か月ほど前に到着した新譜CD。エルガーの歌曲集《海の絵》を中心とするエルガー独唱曲集のアルバムである。ちなみに《海の絵》は小生が偏愛し、シュトラウスの《四つの最後の歌》とともに、音源の完全蒐集を心がけている声楽曲のひとつである。
"Where Corals Lies - A Journey through Songs by Sir Edward Elgar"
エルガー:
《海の絵》作品37
■ 海の子守唄
■ 港にて
■ 安息日の海の朝
■ 珊瑚礁のあるところ
■ 泳ぐ人
《七つの歌》より
■ 7. 羊飼いの歌
■ 1. ダマスク・ローズのように
■ 2. メアリー女王の歌
■ 3. 秋の歌
■ 6. ロンデル
二つの歌 作品60
■ 松明
■ 川
弁解 作品48
騾馬追いのセレナード
自己放逐
語れ、音楽よ 作品41の2
それから 作品31の1
月明かりで
春が訪れるとき(ピアノ伴奏版) ~《荒野に呼ばわる声》作品77
パンジー(《愛の挨拶》ピアノ伴奏版 マックス・レイストナー編)
ソプラノ/ジュリア・シトコヴェツキー
ピアノ/クリストファー・グリン
2021年5月5, 6日、サリー州コブハム、ストーク・ダバーノン、ユーディ・メニューヒン・スクール、メニューイン・ホール
Chandos CHAN 20236 (CD, 2021)
アルバムの標題 "Where Corals Lies" は言うまでもなくエルガーの歌曲集《海の絵 Sea Pictures》(1899)の第四曲である。この曲をタイトルに掲げたアルバムは実のところこれが最初でなく、三年前にオランダで出たルート・ヴィレムセ(Ruth Willemse)のCDが先例をなす。とはいえ、今回のアルバムは収録曲すべてがピアノ伴奏によるエルガー歌曲というところが新機軸で面白い。
周知のとおり、エルガーには《海の歌》を除くと、さしたる成果がないため、たいがいは他の作曲家がコントラルト/メゾソプラノ用に書いた作品、例えばワーグナーの《ヴェーゼンドンク歌曲集》やマーラーの《リュッケルト歌曲集》と組み合わせられた。
本アルバムは副題に "A Journey through Songs by Sir Edward Elgar" とあるように、さまざまな歌曲を通して作曲家エルガーの遍歴を辿るところが新味といえる。正直なところ、他の多くの歌曲は平明な佳作の域を出ないが、《愛の挨拶》の歌曲ヴァージョン(世界初録音)など、珍しい作品も聴けて興趣が尽きない。
ここで清冽な若々しい声を披露するのはソプラノ歌手ジュリア・シトコヴェツキーだ。その名から察しられるように、彼女は著名なヴァイオリン奏者ドミトリー・シトコヴェツキーを父としてロンドンに生まれた。コロラトゥーラ・ソプラノとして各地の歌劇場で活躍する傍ら、ウィグモア・ホール、スネイプ・モールティングズなどでリサイタルを催しており、本CDがデビュー・アルバムだそうだ。《海の絵》をソプラノ歌手が歌った録音にはほとんど先例がないが、声域的な齟齬や不満は全く感じられなかった。