このCDは英国では5月に出たらしいが、タワーレコードへの入荷が遅れに遅れ、今日ようやく届いた。鶴首して待ったアルバムだけに、封を切るのももどかしく、ターンテーブルに乗せる。
"Sir John Barbirolli - Jacqueline du Pré - Alfredo Campoli"
エルガー:
チェロ協奏曲*
シベリウス:
ヴァイオリン協奏曲**
ヴァイオリン協奏曲(映像)***
チェロ/ジャクリーヌ・デュ・プレ*
ヴァイオリン/アルフレード・カンポーリ** ***
ジョン・バルビローリ卿 指揮
BBC交響楽団*
ハレ管弦楽団** ***
1967年1月7日、モスクワ音楽院大ホール(実況)*
1964年12月8日、マンチェスター、王立サルフォード先進工学コレッジ(実況)**
1965年3月16日、BBC放映(スタジオ収録)***
The John Barbirolli Society SJB 1102-03 (CD&DVD, 2021)
デュ・プレ&バルビローリ共演によるエルガーのチェロ協奏曲の未知のライヴ音源が出現した。しかも驚くなかれ、モスクワでの演奏会の実況録音だという!
BBC交響楽団は1967年初頭にプラハ、レニングラード、モスクワの三都市を演奏旅行で訪れた。ジョン・バルビローリとピエール・ブーレーズという全く対照的な二人の指揮者がツアーを率い、ジョン・オグドン、ジャクリーヌ・デュ・プレ、ヘザー・ハーパーがソロイストとして同行した。この楽旅は音楽史的に特別な意義をもつ。ブーレーズが(当局の懸念をよそに)自作を含む十二音音楽を初めてソ連の聴衆に紹介したからである。
この演奏旅行の記録としては、最初の訪問地プラハでのバルビローリ指揮の演奏会の実況録音がすでにCD化されており、そこでもデュ・プレは同じエルガーの協奏曲を弾いていた(1967年1月3日)。このたび出現したのは、それから四日後の1月7日、モスクワ音楽院大ホールで演奏されたエルガーの協奏曲である。
こんなライヴ音源が存在するとは思いもよらなかった。モスクワの放送局が収録したモノーラルの音は、上述のプラハでの鮮明なステレオ録音に比べて聴き劣りするのは事実だが、その弱点を補って余りあるのがモスクワでのデュ・プレのただならぬ集中力である。
とりわけ第一楽章での深い沈潜が凄まじい。世に名高い1965年のスタジオ録音では老練なバルビローリが音楽を先導していたが、このモスクワでの主導権はむしろデュ・プレが握っているように聴こえる。バルビローリはそれを的確に下支えするといった役回りだ。
こうした現象は四日前のプラハ録音ではさほど顕著でなく、モスクワでのデュ・プレがいかに大きな決意と自信をもってエルガーに対峙したかが想像される。実は彼女はちょうど一年前の1966年1月から数か月間モスクワに留学し、ロストロポーヴィチの指導を受けていた。その貴重な体験が彼女のチェロ演奏にさらなる深みと輝きを加えたのは間違いなく、当夜の演奏会はいわば研鑽の成果をモスクワ市民に披露する場でもあったのだろう。恩返しのエルガーだったのだ。
カンポーリのシベリウスについては別の機会に回そう。