旅好きの親しい旧友のひとりは弘前へ、もうひとりは奄美大島へと旅立った。彼らを羨みながらも、そこまで勇気も覇気もない小生は今日やっとの思いで渋谷まで出向き、Bunkamura「ル・シネマ」で映画《ジャズ・ロフト》を観た。
こういうドキュメンタリーがあると数年前に知ってから、いつか観たいものだと公開を久しく待ち望んでいた。ようやく宿願が果たせて、今このうえない歓びに浸っている。
1950年代後半から60年代前半までの約七年間、写真家W・ユージン・スミスはニューヨークのマンハッタン六番街のロフトに住み、周囲で起こる一部始終を写真と録音テープで記録した。なんのために? 自分自身の興味の赴くままに、である。
そこでは有名無名のジャズ・ミュージシャンが集まり、夜ごと熱っぽいジャム・セッションを繰り広げていた。セロニアス・モンク、ズート・シムズ、フィル・ウッズ、ロニー・フリー・・・。
生前の写真家はこれらをただ記録するのみで、発表もせず、写真集や書物にまとめることもないまま、最後の取材地となる水俣へと旅立った。膨大な撮影済のフィルムとオープンリール・テープは、最晩年の彼が教職に就いたアリゾナ大学へと遺贈され、そのまま数十年にわたってアーカイヴに眠り続けた。
「ジャズが熱かった日々」をつぶさに捉えた記録遺産のかけがえのない価値が認識され、それらの整理・分析・研究が一段落したのは、つい数年前のことだ。ドキュメンタリー映画はこの「ジャズ・ロフト」プロジェクトの成果として2015年に制作された。
この映画について語りたいことは山ほどあるが、今日はここまで。