友人の投稿記事で教えられたのだが、この秋から始まるNHKラジオ第二放送の帯番組「まいにちフランス語」(月~金曜、朝七時半~/昼二時半~/翌週昼十一時~)の「応用編」(木・金曜)では、メーテルランク=ドビュッシーの歌劇《ペレアスとメリザンド》の台本を丸ごとテクストとして、来年3月まで半年間かけてフランス語を学んでいく由。その第一回目は9月30日(木)。
これはちょっと見過ごせない話である。なにしろ、メーテルランクの《ペレアスとメリザンド》といえば、遠い遠い昔、大学一年の小生がフランス語の授業で初めて読まされた教科書なのだ。
授業が始まって二週間、まだ主要動詞の活用語尾はおろか、avoir と être の区別も儘ならないうちに、いきなり原文講読だという。あまりにも無謀な話で目を丸くしたが、担当教官は素知らぬ顔で「この芝居は会話が文法的に平易で、用いられる語彙も多くないので、初心者が読むのに最適だよ」と平然と言い放ったのである。
悪戦苦闘は無駄ではなかった。かつての奮励努力の甲斐あって、後年パリのオペラ座で《ペレアスとメリザンド》の上演に遭遇した際、細部に至るまで心ゆくまで愉しめた。未熟な学生にこのテクストを教科書として与えた平川祐弘助教授(当時)には感謝の言葉もない。
そんな次第だから、善は急げとばかりに、往復一時間かけて近在の書店まで赴き、NHKのテクストブックを買い求めてきた。金五八〇円也。お安い買い物だ。早速ページを開いて、講師の川竹英克さんの挨拶文を読んでみた。
NHKラジオ まいにちフランス語 応用編(新作)
オペラで学ぶ
ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』を読む
■ 講師あいさつ
この講座ではクロード・ドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』Pelléas et Mélisande の台本全体を四十八回に分けて読み通します。
19世紀末から20世紀初頭にかけての象徴主義の代表的な作家の一人で、ベルギー生まれの詩人・劇作家モーリス・メーテルランクの劇を原作とするこのオペラの奥義を知り、フランス語の上達を目指します。
このテキストは、現代とほぼ変わらない会話体で書かれていて、語彙も平易で、回りくどい表現もなく、フランス語初級者でも読み通せるものです。その上、ドビュッシーがこの曲を作曲するにあたっては、それまでのオペラとは違い、フランス語自体の抑揚や響きが旋律の支配によってかき消されないよう、極めて繊細な配慮を加えた天才的な作品で、洗練されたフランス語の快楽をこのオペラで体験することも、夢ではありません。
驚いたなあ! 川竹さんの言う「現代とほぼ変わらない会話体で書かれていて、語彙も平易で、回りくどい表現もなく、フランス語初級者でも読み通せる」とは、かつて小生が教室で平川先生から聞かされた説明と、実のところ瓜二つなのである。
顧みれば、かつて小生がいきなり《ペレアスとメリザンド》を無理やり読み通したのは1971年。きっかり半世紀前のことだ。年を経て老いぼれた小生のフランス語の読解力がどれほど衰えたものか、自分で実地に確かめたくなった。七十歳(四捨五入で)の手習いである。