昨年末に出た新譜が届いたので、さっそく封を切って聴いてみた。標題は「クロード・ドビュッシーのトンボー Le Tombeau de Claude Debussy」といい、1920年にフランスの音楽雑誌『ルヴュ・ミュジカル』のドビュッシー追悼号の付録として出た同名の楽譜集を、省略なしに完全収録した、重宝で興味深いアルバムである。
《クロード・ドビュッシーのトンボー Le Tombeau de Claude Debussy》
1. デュカ:《牧神の遥かな嘆き》
2. デ・ファリャ:《讃歌》(ピアノ版)
3. フローラン・シュミット:《そして牧神は月あかりの麦畑に肘をついて横たわった》
4. サティ:《30年間の麗しい友情の思い出に》
5. マリピエロ:《讃歌(レント)》
6. ストラヴィンスキー:《管楽器のためのサンフォニーの断章》(ピアノ版)
7. グーセンス:《無題(モルト・モデラート・コン・エスプレシオーネ)》
8. バルトーク:《無題(ソステヌート、ルバート)》
9. ルーセル:《ミューズたちのもてなし》
◇
10–13. ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
14. ストラヴィンスキー:管楽器のためのサンフォニー
15. デ・ファリャ:《讃歌》(ギター版)
【演奏】
ピアノ/トメール・レヴ [1–9]
ソプラノ/シャロン・ロストルフ=ザミール [4]
ヴァイオリン/ヤンナ・ガンデルマン [10–13]
チェロ/ドミトリー・ヤブロンスキー [10–13]
ギター/ルーベン・セルーシ [15]
ゼーヴ・ドルマン指揮 テルアヴィヴ大学ブフマン=メータ交響楽団 [14]
【録音】
2017年11月20日 …15
2018年1月15日 …14
2018年4月5日 …10–13
2020年3月20日 …4
2020年4月24日 …1–3, 5–9
1918年に55歳でこの世を去ったドビュッシー。その早すぎる死から2年を経た1920年12月、パリで同年創刊されたばかりの音楽雑誌「La Revue musicale」がドビュッシーの思い出に捧げる特集号を発行しました。ドビュッシーから影響を受けた9人の作曲家がそれぞれ作品を寄稿、これらはドビュッシーの美学を反映させながらも、各々のスタイルが強く打ち出されており、当時のパリの音楽界を象徴する作品集となったのです。
このアルバムは「ドビュッシーのトンボー」編纂100年を記念し録音されたもの。これまで断片的に知られていた作品を完全に網羅し、またそこには含まれていない「ドビュッシーの思い出」に捧げられた3つの作品も添えて、100年前のパリを想起させます。
――ナクソス・ジャパン
念のため、文中での誤りを訂正しておくと、この曲集に作品を寄せた作曲家は九人ではなく十人が正しい。すなわち、デュカ、ルーセル、マリピエロ、グーセンス、バルトーク、フローラン・シュミット、ストラヴィンスキー、ラヴェル、デ・ファリャ、サティ。当時のフランス内外の有力な作曲家たちがこぞってドビュッシーに追悼曲を捧げたのだ。
もうひとつ、上の口上には「またそこには含まれていない『ドビュッシーの思い出』に捧げられた3つの作品も添えて」とあるが、その三つの作品、すなわちラヴェルの《ヴァイオリンとチェロのためのソナタ》、ストラヴィンスキーの《管楽器のためのサンフォニー》、デ・ファリャのギター独奏曲《賛歌》は、いずれも部分的に、あるいはピアノ版の形で、追悼曲集「ドビュッシーのトンボー」に含まれているものなのだ。
つまり、本アルバムは1920年に刊行された追悼楽譜集「ドビュッシーのトンボー」と、そこから派生した作品をくまなく集めたもの、というのが正解であろう。以上は老爺心からの註記。
ともあれ、ドビュッシーが亡くなってわずか二年後に、彼の周辺にいた/彼から感化を受けた作曲家たちがこれだけ多様な作風で、さまざまな思いをこめて故人に追悼曲を捧げた事実と、その意味するところを、今一度よく噛みしめてみたいものだ。
ピアニストのレヴをはじめ、演奏家はみな手堅い技量の持ち主らしく、どの曲も安心して聴ける水準にある。
アルバム・カヴァーには追悼楽譜集の表紙を飾っていたラウル・デュフィの素晴らしい石版画が無残にもカットされ、下半分しか掲載されていないが、ご安心あれ。ブックレットの裏表紙には、ちゃんとその全図が載っている。
読者諸賢は2018年、ドビュッシー歿後百年を記念して、青柳いづみこさんの企画で出た「クロード・ドビュッシーの墓」というCDを覚えておいでだろう。あちらのアルバムにも、同じこの追悼楽譜集のうち九曲が青柳さんと西本夏生さん、それにソプラノの福田美樹子さん(サティ)の共演で収められていた(アールレゾナンス)。
ピアノ曲ではないラヴェルが省かれたのは残念だったが、代わりに《亡き王女のためのパヴァーヌ》ピアノ版が収められ、さらにカゼッラ、コダーイ、タイユフェール、ロザンタールらがドビュッシーに捧げたピアノ曲、清瀬保二、石田一郎、荻原利次の三人が1935年に作曲した稀少なオマージュ作品まで収録されていて、至れり尽くせり。これまた聴き逃せない貴重な内容だった。併せてぜひお聴きいただきたい。同アルバムに苦労してライナーノーツを執筆した身としては、一人でも多くの方に聴いて/読んでいただければ幸いである。