今年になって最初に注文したアルバムが届いた。これこそ正真正銘の初荷である。
"Idylle -- Sofia Gülbadamova"
ショパン: 舟歌 作品60
モシュコフスキ:牧歌 作品94の3
エルガー(マルコム・ケンジー編): 弦楽セレナード 作品20
グリーグ:《君を愛す》作品41の3
プロコフィエフ: アダージョ ~《シンデレラからの十の小品》作品97
シューベルト(リスト編):《君こそわが憩い》
アーン:《取り乱した夜鶯 Le rossignol éperdu》より
■ テルプシコレの祭 (No. 50)
■ 踊る女牧神 (No. 40)
■ フローラの目覚め (No. 48)
■ 幻影 (No. 26)
■ パリの朝 (No. 28)
アール・ワイルド:《ガーシュウィンのソングによる練習曲》より
ピアノ/ソフィヤ・ギュリバダモワ
2018年10月18, 19日、ペテルブルグ、ラジオ放送局
ソフィヤ・ギュリバダモワ(Софья Гюльбадамова)はロシア出身でアメリカ在住の奏者で、小品集「ハンガリーの旋律」「ユモレスク」(Hänssler)やエルネー・ドホナーニの独奏曲&協奏曲集(Capriccio)の録音があるそうだが、小生はまるで知らず、本アルバムで初めて聴く。
《牧歌 Idylle》と題されたこの新作は、とにかく選曲が凝りに凝っていて、しかも小生の好みにぴったり合致する。ともかく買ってすぐ聴きたまえと告げられたも同然である。とりあえず、輸入元の紹介文をお読みいただこうか。
《1981年モスクワ生まれのソフィヤ・ギュリバダモワはアメリカのピアニスト、ジェイムズ・トッコに長年師事し、若い女性らしからぬオタクなレパートリーによるCDで注目されています。最新アルバムは「牧歌」と題された小品集。ここでの「牧歌」は深く、単に自然や平和のみならず幼少期の記憶や他者への愛など、個人的で内なる感情を意味しています。選曲は凝っていて、ショパンの「舟歌」やグリーグ自編の「君を愛す」以外はかなり珍しい作品や版が集められています。グラズノフの「牧歌」は作曲者晩年の作で、穏やかで美しい調べの下には計り知れない感情やドラマを孕んでいます。
エルガー最初期の「牧歌」は「愛の挨拶」を思わす優しい感情に満ちていますが、驚きなのは「弦楽セレナード」をマルコム・ケンジーによるピアノ独奏編曲で全曲披露しています。また、レイナルド・アーンの大作「ナイチンゲール狂乱」から6曲を選んでいるのも絶妙。美しい「エグランティーヌ王子の夢」が入っているのが嬉しい限りですが、これを十八番にした往年のピアニスト、マグダ・タリアフェロが恩師トッコの師で、ギュリバダモワは孫弟子であることに誇りを感じているのを証明しています。
アール・ワイルドの「ガーシュウィンの歌による練習曲」は、彼女がトッコに師事するキッカケとなったコンサートで彼が弾いた曲。非常な難曲ですが、彼女の見事な指さばきを堪能できます。》(キングインターナショナル)
グラズノーフ晩年の秘曲に注目し、レナルド・アーンの小品集《取り乱した夜鶯》、とりわけ「エグランティーヌ王子の夢」の収録を「嬉しい限り」と欣喜雀躍する御仁といえば、世界広しといえども宮山幸久氏を措いてほかにおるまい。キングインターナショナルの名プロデューサーにして、斯界随一の博覧強記の人でもある。
本アルバムの聴きどころは、上に引いた宮山氏の懇切な紹介文にほぼ尽きているが、最後のガーシュウィンの編曲者アール・ワイルドは、アーンの《取り乱した夜鶯》全曲を世界初録音した人物である。本アルバムの収録作品は一見とりとめない寄せ集めにみえて、深いところで強い絆によって互いに結び付いている気がする。
2020年5月、コロナ禍のただなかで、ピアニスト自身がライナーノーツに書いている。「このアルバムを聴いた人がしばし現実を逃避できるよう願っています。そうすることで、この現実が少しでも美しく、煌めくものとなりますように」。