ペーテル・バルトーク(Peter Bartók)が12月7日に亡くなったそうだ。言うまでもなく、作曲家ベーラ・バルトークの次男である。
われわれLP世代の者には、ピーター・バルトークと呼んだほうが似つかわしい。優れた録音エンジニアとして「バルトーク・レコード」を主宰し、LP創生期の1950年代初め、父の作品を矢継ぎ早に録音したことで記憶される。もちろんすべてモノーラル収録だが、輪郭がくっきり明瞭な音質だったから、演奏の良さと相俟って、規範的なバルトーク録音として永く愛聴されてきた。これらの音源は近年もペーテル自身の手でCD化され、今でも入手できる。
彼はまた父についての優れた回想録 "My Father" を著し、歌劇《青髭公の城》とバレエ《かかし王子》の校訂楽譜、遺作《ヴィオラ協奏曲》の自筆草稿ファクシミリなど、バルトーク愛好家には必携の刊行物を世に送った。これらは彼が手がけたCDとともに、村上泰裕さんが主宰される「バルトーク・レコーズ・ジャパン」を通して、わが国にも広く流通している。
村上さんはペーテルと親交を深め、上記の回想録を自ら邦訳した『父・バルトーク 息子による大作曲家の思い出』(スタイルノート、2013)も刊行している。
ペーテルは実の息子でありながら父の著作権を継承できず、悪辣な遺産管財人や楽譜出版社との二十数年の長きにわたる訴訟を戦い抜き、ついに権利を回復するとともに、貴重な直筆楽譜を取り戻した由。上に挙げた刊行物はそこから生まれた晩年の執念の結実だったのである。享年九十六。ペーテルの名は、まず不世出の録音技師として、次いで父ベーラ・バルトークの遺産を継承し、後世に伝えた者として、これからも語り継がれていくだろう。
今日は彼の死を悼みつつ、バルトークの遺作となったヴィオラ協奏曲を聴こう。もちろんピーター・バルトークが録音を手がけた世界初録音(米Bartók Records)で。
バルトーク:
ヴィオラ協奏曲(ティボール・シェルリ編纂版)
ヴィオラ/ウィリアム・プリムローズ
ティボール・シェルリ指揮
ロンドン新交響楽団 The New Symphony Orchestra of London
1951年、ロンドン、キングズウェイ・ホール