1973年2月のこと、荻窪の「シミズ画廊」で研究家アン・ヘリングさんのコレクションを展示した「日本のおもちゃ絵展」が開かれた。もう遠い昔のこととて、展示そのものの記憶は薄らいでしまったが、その日は最終日で日曜ということもあり、彼女が教えている法政大学の学生が何人か手伝いに来ていた。
同世代の気安さで、初対面なのに打ち解け、いろいろ雑談するうち、ひとりの学生がふと『スイミー』という名を口にした。自分がいちばん好きな絵本だという。傍らにいた女子学生もまた「私も大好き」と同調した。
小生はその絵本も作者のことも全く知らず、おずおず口を噤むほかなかった。わが無知蒙昧を恥じて、帰り道の新宿で途中下車して、書店の児童書コーナーに立ち寄ったのは言うまでもない。
当時すでにレオ・レオニ(もしくはレオーニ)はわが国でも馴染の存在で、藤田圭雄訳で『あおくんときいろちゃん』(至光社)が、谷川俊太郎訳で『フレデリック』と『せかいいちおおきなうち』そして『スイミー』(以上、日本パブリッシング)が出ていて、気鋭のデザイナーが描いた新傾向の絵本として評判になっていたのだから、知らないほうがどうかしていた。その後も『みどりのしっぽのねずみ』『アレクサンダとぜんまいねずみ』以下、彼の絵本は谷川俊太郎訳で続々と紹介され、あまねく人口に膾炙した。
絵本『スイミー』とその作者レオ・レオニ(Leo Lionni)と聞くと、このほろ苦い思い出が浮かび上がる。
さきほど郵便局で、今日(11月27日)出たばかりの記念切手「絵本の世界」シリーズ第4集を買い求めながら、走馬灯さながら脳裏に浮かんだ遠い記憶である。ちなみに、今回の小型シートの図柄は、『スイミー』が四枚(上の一列)、『フレデリック』と『アレクサンダとぜんまいねずみ』が各三枚からなる。
⇒これ