このボックス・セットの到着を指折り数えて心待ちにしていた。この覆刻は間違いなく今年一番の、いやここ数年来で最大の快挙ではないか。辛いことばかりの年にも少しは良いことがある。
"Nadia Boulanger: The American Decca Recordings"
《CD 1》
モンテヴェルディ:
《マドリガーレ集》第五巻より
1) 第二曲/おお、わが心のミルティッロ
2) 第三曲/わが魂は
《音楽の戯れ》より
3) とても美しいお嬢さん
《マドリガーレ集》より
4) 第九巻より/おお、なんと愛しき
5) 第四巻より/星に向かって彼は打ち明けた
6) 第八巻より/いとも優しき夜鶯よ
7) 第七巻より/断たれた希望
8) 第四巻より/輝く美しい目の太陽が巡ると
《音楽の戯れ》より
9) あの高慢な眼差し
《マドリガーレ集》より
10) 第八巻より/いざ素敵な羊飼いたちよ
11) 第六巻より/ティルシよ、麗しのクローリが
ソプラノ/フロール・ヴァン
テノール/ユーグ・キュエノー、ポール・ドレンヌ
バス/ドダ・コンラッド
ナディア・ブーランジェ指揮
器楽アンサンブル
《CD 2》
フランス・ルネサンスの合唱曲
1) ジョスカン・デ・プレ:千々の悲しみ
2) クレマン・ジャヌカン:この美しい五月
3) クロード・ル・ジューヌ:ああ、わが神よ、そなたの怒りは
4) オルランド・ディ・ラッソ:こんにちは、わが心よ
5) ギヨーム・コストレー:気高さは心にあり
6) オルランド・ディ・ラッソ:わが人が帰り来たりしとき
7) 伝承曲:わが愛情を告げようとして
8) ギヨーム・コストレー:愛しい人よ、いざ薔薇を見に行かん
9) クローダン・ド・セルミジー:いざ飲まん
10) クロード・ル・ジューヌ:春はまためぐり来ぬ
11) ジャック・モーデュイ:そなたは私を優しく殺す
12) クロード・ル・ジューヌ:そなたにはわかるまい
13) クローダン・ド・セルミジー:美しい森に
14) ピエール・ボネ:ある日フランシオンが来りて
15) クレマン・ジャヌカン:鳥の歌
ソプラノ/フロール・ヴァン、モンダ・ミリオン、ジュヌヴィエーヴ・マシニョン
メゾソプラノ/ナンシー・ウォー
コントラルト/ヴィオレット・ジュルノー
テノール/ユーグ・キュエノー、ポール・ドレンヌ
バス/ドダ・コンラッド、ベルナール・コトレ
ナディア・ブーランジェ指揮
器楽・声楽アンサンブル
《CD 3》
シャルパンティエ: 歌劇《メデ》抜粋
ソプラノ/フロール・ヴァン、ナディーヌ・ソートロー
メゾソプラノ/イルマ・コラッシ、マリア・フェレス
コントラルト/ヴィオレット・ジュルノー
テノール/ポール・ドレンヌ
バス・バリトン/ベルナール・ドミニー
バス/ドダ・コンラッド
ナディア・ブーランジェ指揮
器楽・声楽アンサンブル
《CD 4》
ラモー:
歌劇《ダルダニュス》抜粋(四曲)
歌劇《カストールとポリュックス》より「序幕のメヌエット」
歌劇《イポリートとアリシー》より「恋する夜鶯よ」
歌劇《ダルダニュス》より「おお、おぞましき日」
歌劇《優雅なインドの国々》より「世界の明るい炎」
歌劇《イポリートとアリシー》抜粋)(二曲)
歌劇《カストールとポリュックス》より「永遠の平和は」
歌劇《エベの祭典》より「セーヌの岸へ飛び行かん」
歌劇《アカントとセフィーズ》より「タンブーランと間奏曲」
歌劇《エベの祭典》より「そなたにまた会えた」
歌劇《プラテー》より「バッカスに歌を捧げよう」
ソプラノ/フロール・ヴァン、ナディーヌ・ソートロー
メゾソプラノ/イルマ・コラッシ
テノール/ポール・ドレンヌ、ジャン・マシエ
バス・バリトン/ベルナール・ドミニー
バス/ドダ・コンラッド
ナディア・ブーランジェ指揮
器楽・声楽アンサンブル
《CD 5》
ブラームス:
《新しい愛の歌――十五の円舞曲》作品65*
《三つの四重唱曲》作品64
《四つの四重唱曲》作品92の1「おお美しい夜」
《六つの四重唱曲》作品112 より
その1「憧れ」
その2「夜に」
ソプラノ/フロール・ヴァン
メゾソプラノ/ナンシー・ウォー
テノール/ユーグ・キュエノー
バス/ドダ・コンラッド
ピアノ&指揮/ナディア・ブーランジェ
第二ピアノ/ジャン・フランセ*
1952年8月(CD 1, 2)、1953年1月21日(CD 3, 4)、1954年5月22日(CD 5)、パリ
Eloquence - Deutsche Grammophon 484 1384 (5CDs, 2020)
ナディア・ブーランジェ女史が亡命先のアメリカからパリに帰還し、1950年代初めに取り組んだ録音プロジェクトの全貌が、このたび初めて正規にCD覆刻された。
ナディア・ブーランジェ(1887~1979)の教育面での業績は誰もがよく知るとおりだが、彼女は指揮者としても卓越し、とりわけ戦前からルネサンス・バロック音楽の復興に尽くした先駆者としての仕事が重要である。
この5CDsボックスでも、モンテヴェルディのマドリガーレ集とともに、フランス・ルネサンスの合唱曲の数々、マルク=アントワーヌ・シャルパンティエの歌劇《メデ》抜粋、ラモーのさまざまな歌劇からの抜粋がたっぷり聴ける。
フロール・ヴァン、イルマ・コラッシ、ユーグ・キュエノー、ポール・ドレンヌ、ドダ・コンラッドら、ブーランジェ女史お気に入りの声楽陣も、期待にたがわぬ見事な歌唱を聴かせる。ブラームスの《新しい愛の歌》がことのほか素晴らしい。
戦後まだ日の浅い混乱期ゆえ、これらの録音はアメリカ資本の手でなされたものらしく、オリジナルLPはなぜか米Deccaから出ていた。三十年ほど前、それらのLPを躍起になって蒐集した小生は、今回アルバム・カヴァー(デザインはスイス生まれの名手エリック・ニッチェ Erik Nitsche)まで、きちんと複製されている点にも、格別の嬉しさと懐かしさを覚えた次第だ。