1970年当時、フローラン・シュミットを知るのは容易でなかった。この年、たまたま弦楽のための愛すべき交響曲《ジャニアナ》のLP(パイヤール指揮)を手にし、それとは対照的に豪奢絢爛なバレエ音楽《サロメの悲劇》(デ・アルメイダ指揮)をラジオで耳にしたものの、そこから先へは閉ざされた茨の道で、容易に進めない。
考えてみると、この年は作曲家の生誕百周年に当たっていたはずだが、極東の島国で彼が話題になることなど絶えてなく、誰も存在を気に留めない群小作曲家の一人にすぎなかったのだ。まあ事態は今もあまり変わらないが。
《ハープのための室内楽》
モーリス・ラヴェル:《序奏とアレグロ》*
フローラン・シュミット:《ロカイユ風の組曲》作品84
アルベール・ルーセル:《セレナード》作品30
マリー=クレール・ジャメ五重奏団
ハープ/マリー=クレール・ジャメ
フルート/クリスティアン・ラルデ
ヴァイオリン/ホセ・サンチェス
ヴィオラ/コレット・ルキアン
チェロ/ピエール・ドジェンヌ
クラリネット/ギー・デプリュ*
ヴァイオリン(第二)/ジャック・ドジャン*
1960年10月15, 17~19日、パリ、バークレー・スタジオ
日本コロムビア エラート OS-474-RE (1965)
アルバム全曲 ⇒ https://www.youtube.com/watch…
このアルバムは日本盤として実は二代目で、これ以前に仏Eratoが日本ウエストミンスターという会社と契約していた時代にも「ヴォアドール Voix-d'Or」なるレーベルで出ていた(VOS-3075E, 1962)。1960年代を通して入手できたから、「フローラン・シュミットといえば《ロカイユ風の組曲》」と刷り込まれた年長世代もいたはずだ。
録音から六十余年を経てもなお、本アルバムは色褪せない。なにより選曲がこのうえなく秀逸である。20世紀前半のフランスでは、フルートとハープに弦楽三重奏(ラヴェルの場合は弦楽四重奏とクラリネット)を組み合わせた室内楽の傑作が、あたかも申し合わせたように陸続と現れたが、とりわけこのラヴェル(1905)、ルーセル(1925)、シュミット(1934)の三作はその白眉といえるだろう。これにロパルツの《前奏曲、マリーヌとシャンソン》(1928)を加えれば、優に一夜のリサイタルが催せるだろう。
ここでハープを弾いているマリー=クレール・ジャメ(Marie-Claire Jamet)はハープ奏者ピエール・ジャメ(Pierre Jamet)を父にもち、閨秀ハーピストの最高峰リリー・ラスキーヌに師事しており、いわばフランスのハープ演奏の本流に連なるべき存在である。
フローラン・シュミットの《ロカイユ風の組曲》は、そもそも彼女の父ピエール・ジャメとその五重奏団が世界初演した、という一事だけからも、ここでの彼女たちの演奏が正統的な流儀を受け継ぐものかが想像されよう。
CD時代にこのアルバムが忘却の淵に沈んでしまい、きちんとした形で覆刻されていないのが残念でならない。