小生が生まれて初めて聴いたフローラン・シュミットの楽曲は、バレエ音楽《サロメの悲劇》でもなく、吹奏楽のための《ディオニュソス祭》でもなく、《ジャニアナ》という可憐な弦楽合奏曲だった。別の目的で買い求めたLPレコードに、たまたま収録されていたのである。
その日は1969年8月5日、と手控え帖に記録がある。意を決した高校二年生は埼玉の田舎から上京し、小遣い銭を握りしめて秋葉原「日の丸電気」レコード売場へと赴いた。
この店に来るのは一か月ぶり。同年の7月9日に生まれて初めてLPレコードを購入した。グラズノーフのバレエ音楽《四季》(アンセルメ指揮)がそれで、そのときは清水の舞台から飛び降りる決死の覚悟だったのだが、いったん高みから身を投げる昂奮と快感を体が憶えてしまうと、次はもう怖くない。ほとぼりが冷めると、またぞろ次なるレコードが欲しくて欲しくてたまらなくなった。今に至る業病の始まりである。
この日、二枚目のLPとして迷わず買い求めたのはこれだ。お目当てはA面に収められたアルテュール・オネゲルの第二交響曲。すでにこのアルバムを上野の東京文化会館の音楽資料室で試聴してあったから、逡巡や躊躇はなかった。
《パイヤール/現代フランス音楽選》
オネゲル: 交響曲 第二番 弦楽とトランペットのための*
ルーセル: 小交響曲(シンフォニエッタ) 弦楽オーケストラのための
シュミット: 交響曲《ジャニアナ》 弦楽オーケストラのための
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮
パイヤール管弦楽団
トランペット/マルセル・ラゴルス*
日本コロムビア Erato OS-2095-RE (LP, 1968)
このとき賽は投げられたと言おうか。五十一年後の小生も、変わることなく当盤を愛してやまないのだ。進歩がないと言えばそのとおりだが。
そして、これこそが「わがフローラン・シュミット事始」となった記念すべきLPなのだ。その曲が可憐で魅惑的な、だが誰も知らない弦楽合奏のための音楽だったのは、われながら奇縁というほかない。
この弦楽合奏のための小交響曲《ジャニアナ》作品101(1941)は、史上初の女性だけの弦楽合奏団「パリ女性オーケストラ Orchestre féminin de Paris」の創始者ジャーヌ・エヴラール Jane Evrard(1893~1984)の依頼で書かれ、彼女とそのオーケストラが初演した。《ジャニアナ》という曲名はもちろん彼女の名に因んだものである。
https://www.youtube.com/watch?v=bLMnWZgsM-Q