在りし日のVirgin Classics は若き実力派の指揮者の発掘に熱心だった。先に例を挙げたリチャード・ヒコックス(1948生)やケント・ナガノ(1951生)と並んで、フィンランド出身のユッカ=ペッカ・サラステ Jukka-Pekka Saraste(1956生)の活躍にも目覚ましいものがあった。
ナガノが《火の鳥》《春の祭典》《ペルセフォーヌ》を手がける傍らで、サラステは《夜鶯の歌》と《アポロン・ミュザジェート》に挑む、といった具合に、同レーベルではこの二人の俊英にストラヴィンスキーの舞台作品の新録音を分担させるプロジェクトが進行していたのである。
北欧の指揮者だからグリーグかシベリウスを、といった凡庸な発想に捉われず、才能の赴くまま未踏のレパートリーを委ねる果敢な姿勢には、今さらながら敬服させられる。冒険が許される佳き時代だったのだ。
"Stravinsky: Apollon Musagète/Dumbarton Oaks -- SCO/Saraste"
ストラヴィンスキー:
バレエ《ミューズを率いるアポロ》(1927/28, rev. 1947)
協奏曲 変ホ長調《ダンバートン・オークス》(1937/38)
二調の協奏曲 (1946)
ユッカ=ペッカ・サラステ指揮
スコットランド室内管弦楽団
1989年8月、グラズゴー、シティ・ホール
Virgin Classics VC 7 91115-2 (1990)
ミューズを率いるアポロ(序景)
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=W-al5sfgs84
ダンバートン・オークス
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=QrwE53TUfhI
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=ZDZhOiKTg-4
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=oSF-XwCR-uY
なんの先入観もなく聴きだすと、ストラヴィンスキーのクールな佇まいの表出が好ましい美演である。《アポロ》には作曲者の自作自演のほか、ムラヴィンスキーやカラヤンを含む凄演が目白押しなのだが、このサラステ盤はそれらに伍して自己を主張できそうだ。小編成アンサンブルの精緻な響きもいい。
《ダンバートン・オークス》へ、さらに二調の協奏曲へと連なるストラヴィンスキーの新古典主義の系譜が、《アポロ》を起点として辿られることで、くっきり浮き彫りにされる。
その後のサラステは必ずしも活躍の舞台に恵まれていない。それどころか、同じ北欧出身のエサ=ペッカ・サロネンやサカリ・オラモらの陰で存在が霞みがちだ。この事実はいかにも残念に思える、それほどまでに印象的な名演なのである。