"Janáček: Sonata, In the Mists etc.: Leif Ove Andsnes"
ヤナーチェク:
ピアノ・ソナタ《1905年10月1日》
《霧の中で》
《草蔭の小径で》第一集
ピアノ/レイフ・オヴェ・アンスネス
1990年4月、12月、スネイプ、ザ・モールティングズ
Virgin Classics 0777 7596392 2 (1991)
ソナタ⇒
https://www.youtube.com/watch?v=WkItIHGbYi8
https://www.youtube.com/watch?v=kErEjdZc_cs
霧の中で⇒
https://www.youtube.com/watch?v=mMuFC3aAAFE
https://www.youtube.com/watch?v=8BV7EVUIQwA
https://www.youtube.com/watch?v=3dpOdMEmfxQ
https://www.youtube.com/watch?v=kBX6GLxKyfc
茫洋たる霧に包まれて佇み、ひとり自問自答する呟きのような音楽――ヤナーチェクのピアノ曲がラジオから流れてきた際の第一印象はそんなところだったろう。そのとき聴いた演奏はフィルクシュニーだったか、クヴァピルだったろうか。LP時代の昔、ヤナーチェクといえばほぼチェコのピアニストの独擅場で、あとは若き舘野泉に《草蔭の小径で》の録音があった程度か。
だからノルウェー出身という、この姓名の読み方すら不確かな新人の実質的なデビュー盤がヤナーチェク・アルバムであることに、軽い眩暈めいた驚きを覚えたものだ。
1970年生まれだから、録音時には弱冠二十歳。にもかかわらず、未熟さの気配は微塵もなく、ここはかくあるべしと言わんばかり、迷いのない確信に満ちた弾きっぷりに目を瞠る。彼の解釈が本場のピアニストたちとどう異なるかが言明できるほどヤナーチェクに詳しくないが、磨き抜かれた音色と密やかな抒情が胸を打つ演奏だ。この人は最初から只者でなかったのである。
当アルバムから三十年になるが、彼のヤナーチェク録音は(ヴァイオリン・ソナタの伴奏を除いては)未だにこれだけだ。各地のリサイタルでは今も頻繁に弾いているにもかかわらず。それほどまでに、この若き日の録音は彼自身にも記念すべき、輝かしくも凌駕しがたい金字塔なのだろう。