よく晴れた春日和かと思いきや、外の空気は刺すように冷たく、おまけに俄か雨すら降る不安定な天候だ。まるで今の私たちの心理状況そのもののようだ。こんなに鬱屈した春の始まりは2011年以来ではないだろうか。
昔からシューベルトを大の苦手とする。この《大交響曲》もやたらと長く、よく言えば構えが大きく威風堂々だが、たいていの演奏は大袈裟に煽り立てるばかりで一向に愉しめない。
ところがどうだ、この盤の演奏は。小編成の古楽器オーケストラならではの小ぶりで質朴な響きが実にいい。シューベルトが望んだのはまさにこの音色配合だったのではないかと思わせる。
マッケラスの解釈は基本的にはインテンポを守り、質実剛健そのものだが、随所にニュアンスの閃きがあり、一本調子に陥る瞬間が皆無である。楽譜の指示どおり、繰り返し箇所はほぼ遵守されるが、いささかも退屈と感じさせない。
一言でいえば、これは過去の指揮者たちを一挙に顔色なからしめるオーセンティックな演奏実践である。
アルノンクールやレオンハルト、ブリュッヘンならいざ知らず、それまで古楽器楽団を指揮した経験がなかったはずの名匠に、かかる芸当がいきなり可能だったのは奇蹟というほかない。端倪すべからざるマッケラス卿! 一度も実演を聴く機会がなかったのが悔やまれる。
愉悦感と推進力に満ちたシューベルトに力づけられ、少しだけ元気が出た気がする。