忙中閑あり。拙宅のWiFiがいつになく絶不調で難儀したが、それも乗り越えて注文原稿を仕上げてホッと一息。今日(3月2日)がクルト・ワイルの誕生日なのを思い出した。それもきっかり生誕百二十周年である。
いささか遅きに失した感は否めないが、とにかくこのアルバムを聴こう。聴かずにはいられないのだ。
"Tryout -- Kurt Weill and Ira Gershwin"
クルト・ワイル :
《私たちはここからどこへ行く?》(アイラ・ガーシュウィン詞)より
■ ニーナ、ピンタ、サンタ・マリア*
《ワン・タッチ・オヴ・ヴィーナス》(オグデン・ナッシュ詞)より
■ 西風
■ とても、とても、とても
《私たちはここからどこへ行く?》より
■ ラインランドの歌
《ワン・タッチ・オヴ・ヴィーナス》より
■ スピーク・ロウ
■ ジャージー・プランク~トラブル・ウィズ・ウィメン
《私たちはここからどこへ行く?》より
■ マンハッタン(インディアンの歌)*
《ワン・タッチ・オヴ・ヴィーナス》より
■ ザッツ・ヒム
ヴォーカル&ピアノ/クルト・ワイル
ヴォーカル/アイラ・ガーシュウィン*
1943年(ワン・タッチ・オヴ・ヴィーナス)
1945年(私たちはここからどこへ行く?)
DRG 904 (1953/1979/1991)
クルト・ワイルが自作をピアノで弾き唄いした、貴重きわまりない音源である。うち三曲では共作者アイラ・ガーシュウィンとのデュエットが披露される。
どうしてこのような録音が残されたのか。
ミュージカル《ワン・タッチ・オヴ・ヴィーナス》の場合は、すべての挿入歌が出来上がった段階で、試演(トライアウト)に備えてスタッフとキャストに聴かせる目的で、映画音楽《私たちはここからどこへ行く?》では、もっぱらプロデューサーに聴かせて正しいテンポを伝え知らせる目的で。
いずれにせよ、この音源が後世に遺され、レコード化されて満天下に広まるとはワイル自身は想像だにしなかっただろう。
ワイルの声は決して美声ではなく、歌も素人じみているが、曰く言い難い味わいがある。とりわけ「スピーク・ロウ(小声で歌え)」は、どんな巧緻な美声で歌われたとて、この作者自身の肉声には叶うまい。
https://www.youtube.com/watch?v=l-_EnBXJpeA
昨夜の四時間に及ぶラジオ番組「生誕120年クルト・ヴァイル特集」でも、最後の最後に、しみじみこの声でこの歌が流れたはずである。