必要に迫られて手元にあるクルト・ワイルの音盤を片っ端から聴いて過ごしている。雨降りで外出できず、ちょうどいい時間つぶしなのだが。
"Kameleonic Weill"
クルト・ワイル:
輝けるベルリン (クルト・ワイル詞)
兵士の妻は何を貰った? (ベルトルト・ブレヒト詞)
ナンナの唄 (ベルトルト・ブレヒト詞)
硬い胡桃の唄 (ベルトルト・ブレヒト詞)
寝転んだら横になるままだ(自業自得さ)ベルトルト・ブレヒト詞)
ユーカリ (ロジェ・フェルネ詞)
セーヌ哀歌 (モーリス・マグル詞)
あんたを愛してないわ (モーリス・マグル詞)
アキテーヌの王様 (モーリス・マグル詞)
私の船 (アイラ・ガーシュウィン詞)
九月の唄 (マックスウェル・アンダソン詞)
夜勤当番の相棒 (オスカー・ハマースタイン詞)
小声で語れ (オグデン・ナッシュ詞)
ここでは私が余所者みたい (オグデン・ナッシュ詞)
ジェニーの伝説 (アイラ・ガーシュウィン詞)
それはあなたじゃなかった (マックスウェル・アンダソン詞)
ヴォーカル/テレサ・デ・ラ・トーレ Teresa de la Torre
編曲・ピアノ/ハビエル・アルハンス
クラリネット&バス・クラリネット/アルベルト・グミー
打楽器/サキ・ギジェム1999年9月、バルセロナ、ビット・ア・ビート・スタジオ
Ars Harmonia AH 065 (1999)
→アルバム・カヴァー1999年から翌年にかけて、世界中で相次いでワイル・アルバムが陸続と出たのは、2000年が作曲家の生誕百周年、歿後五十周年の記念年だったからに違いない。本CDにも "KURT WEILL 100" のロゴがあしらわれている。そのときは当たり前のように受け止めたが、今となってみると五十年に一度、まことに贅沢の限りだった。
というわけで、これはスペイン、いや、ここはバルセロナだから、より正確にはカタルーニャで出たワイルのソング・アルバムである。
国内向け仕様なのでライナーノーツはカタルーニャ語のみ。なのでアルバムのコンセプトはおろか、歌手についても共演者についても、何ひとつ判らない。
耳から判断する限りでは、テレサ・デ・ラ・トーレは癖のない素直な声のメゾソプラノで、(たぶん)声量はあまりない。およそワイル歌いらしからぬ声質であるが、それでも相応な表現力で歌いこなすところは、おそらくオペラかミュージカルの舞台で鍛えた人なのであろう。
伴奏は小生があまり好まないピアノ・トリオによるスタイルだが、あくまでもピアノ主体であり、しかも編曲(このピアニスト自身が担当)がとても上質で節度をわきまえている。
アルバムの選曲もまた奇を衒わずに、ワイルのソングをほぼ年代順で、ドイツ時代→パリ亡命期→渡米後と並べており(ただし米国時代の「兵士の妻は何を貰った?」はドイツ時代に組み込まれる)、そのまま作曲家の長い旅路の足跡を辿るような塩梅だ。
「カメレオンのような(=変幻自在、変わり身が早い)ワイル」というアルバム標題ほどには千変万化する感じはなく、時代ごとの作風の変遷はむしろスムース。だから安心して歌の連なりに身を任せられる。
クルト・ワイルの人生の旅に同伴しているようなアルバム、といおうか。旅行鞄ひとつのテレサ嬢が列車のデッキに佇むモノクロのカヴァー写真は、このアルバムのコンセプトにぴったりに思える。