八十六歳なのだから仕方ない。そう思いつつ承服できないのは、不死身の気配をあたりに漂わせていたからだろう。「エースのジョーは死なない」のだと。1974年10月5日、生まれて初めて観た文芸坐のオールナイト興行は彼の主演作の五本立てだった。生身の姿を目の当たりにしたのは1975年1月19日、新宿の厚生年金会館大ホールで催された「歌う銀幕スター 夢の狂宴」だった。舞台の袖で出番を待ちながら緊張で震えている桃井かおりに近づくと、エースのジョーは彼女を抱き寄せ頬に口づけしたのだ。やがて彼の出番が来ると、舞台で大立ち回りを演じ、最後は鈴木清順監督と肩を組みながら熱唱した。凄い役者だった。大井町の名画座に矢作俊彦とともにゲストで登壇し、「まだまだアクションはやれる」と豪語したのは、あれはいつのことだったろうか。
追悼の思いをこめて、今夜はこのアルバムを聴くことにする。ジョン・ゾーンの《スピレーン Spillane》(1987 →これ)。無類の日本映画狂ゾーンがわざわざジャケットに登場させたのがこの人のハードボイルドな後ろ姿だったのを忘れない。