週末の穏やかな晴天とはうって変わり、篠つく雨が朝から降りやまない。そんな日には大人しく在宅し、炬燵のなかで文案を練る。そろそろ連載原稿を書かねばならない。だがその前に、まずは心身を落ち着かせる音楽だ。十日ほど前に入手した四枚組CDボックス。
"Josef Vlach: Czech Chamber Orchestra -- Legendary Recordings"
Disc1
1. ドヴォジャーク: 弦楽セレナード ホ長調 作品22*...
2. スク: 弦楽セレナード 変ホ長調 作品6**
3. ドヴォジャーク:《チェコ組曲》ニ長調 作品39***
1966年12月27, 28日*、1961年9月23~25日**、プラハ、ルドルフィヌム
1976年11月~17日***、プラハ、スプラフォン・デイヴィツェ・スタジオ
Disc2
4. モーツァルト: ディヴェルティメント ニ長調 K.136*
5. モーツァルト: アダージョとフーガ ハ短調 K.546**
6. モーツァルト: アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525***
7. チャイコフスキー: 弦楽セレナード ハ長調 作品48****
1960年2月23日*、1960年9月11日**、プラハ、ドモヴィナ・スタジオ
1960年3月3日***、1964年10月1, 2, 4日****、プラハ、ルドルフィヌム
Disc3
8. ブリテン:《フランク・ブリッジの主題による変奏曲》*
9. ドビュッシー:《神聖な舞曲と世俗の舞曲》**
10. イリヤ・フルニーク: オーボエ、ピアノと弦楽のための協奏曲***
11. イジー・パウエル: 弦楽のための交響曲****
1965年6月24, 28, 29日*、プラハ、ルドルフィヌム
1961年9月17日**、1961年9月3, 4日***、1981年11月27, 28日****、プラハ、チェコ・ラジオ
Disc4
12. パーセル: 組曲《アーサー王》*
13. レスピーギ: 組曲《鳥》**
14. ストラヴィンスキー:《ミューズを率いるアポロ》***
1978年2月5~19日*、1974年2月4~8日**、プラハ、ルドルフィヌム
1965年12月17~21日***、プラハ、ドモヴィナ・スタジオ
ヨゼフ・ヴラフ指揮
チェコ室内管弦楽団
プラハ室内管弦楽団(チェコ組曲、鳥)
ハープ/カレル・パトラス(ドビュッシー)
オーボエ/スタニスラフ・ドゥホン(フルニーク)
ピアノ/イリヤ・フルニーク(フルニーク)
Supraphon SU 4203-2 (2016) →アルバム・カヴァー
HMVのサイトにこのボックスについて簡にして要を得た紹介文があるので、まるごと引いておこう。
チェコの指揮者、ヨゼフ・ヴラフ(1923~1988)は、指揮者、コンサートマスター、ヴァイオリニストとしての活動のほか、自ら結成した弦楽四重奏団、ヴラフ四重奏団でその名をよく知られています。
ヴラフは、ヴァーツラフ・ターリヒが1946年に華々しく結成したチェコ室内管弦楽団のコンサートマスターを務めていましたが、1948年に解散となってしまったため、1950年にヴラフ四重奏団を結成、室内楽の分野で名を上げますが、1958年、オケの解散10年を機に、伝説となっていたチェコ室内管弦楽団を再び結成、1988年に亡くなるまでの30年間に渡って音楽監督を務め上げます。
チェコ室内管弦楽団の魅力は、なんといっても弦の国チェコならではの表現力豊かな弦楽セクションにあり、バロック、古典派から近代作品に至るまで広範なレパートリーでその美しいサウンドを聴かせていました。
「ヨゼフ・ヴラフ チェコ室内管弦楽団/レジェンダリー・レコーディングズ」と名付けられたこの初CD化を多く含むセットでは、彼らがスプラフォンで制作したアルバムを中心に収録、音響の良いホールに響いたコンディションの良い演奏を楽しむことができます。
なお、セットにはプラハ室内管弦楽団とのドヴォルザーク《チェコ組曲》とレスピーギ《鳥》も収録されています。この2つはどちらもいつものプラハ室内管らしく指揮者なしの録音として長年知られてきたものですが、実際にはヴラフが指揮していたというものです。
これ以上なんら付け加える必要のない懇切な紹介文である。あえて付記するなら、大指揮者ヴァーツラフ・タリフは占領下でのナチス・ドイツとの関係を疑われて、共産主義国家チェコスロヴァキアの厳しい監視下におかれ、演奏活動を制約された。彼が創設したチェコ室内管弦楽団がわずか二年で「タリフとの関係を断つか、活動を停止するか」の岐路に立たされ、解散に追いやられたのはそのためである。タリフの愛弟子で同団のコンサートマスターだった若きヴラフの心境はいかばかりだったろう。
その十年後の1958年、ヴラフが再結成した室内楽団がタリフの楽団と同じ名称「チェコ室内管弦楽団 Český komorní orchestr」を名乗ったのは、師匠の見果てぬ夢を継承しようとする切なる願いが込められていたためだろう。
❖
並行して彼は自らの名を冠したヴラフ弦楽四重奏団の第一ヴァイオリン奏者としても活躍し、むしろこちらのほうが広く知られているかもしれない。
チェコ室内管弦楽団(実際は弦楽のみの編成)は盛んに国外へも演奏旅行に出たため、早くから国際的に知られた存在だった。本CDのライナーノーツには、彼らがはるばる大阪で音楽祭に参加し、シャルル・ミュンシュ指揮のボストン交響楽団と並び称された逸話が誇らしげに特筆されている。1960年春の「大阪国際フェスティバル」のことだ。
小生にとって、ヨゼフ・ヴラフとそのオーケストラはドヴォジャークの《弦楽セレナード》での名演と分ちがたく結びついている。高校生の頃なけなしの小遣いをはたいて買ったLPがまさにこの演奏であり、爾来わが刷り込みとなって今日に至る。純朴と流麗とがないまぜになったセレナードの味わいを、ヴラフと彼の楽団はなんの作為もなく、あるがまま自然に表出している。これにはカラヤンもクベリークもネヴィル・マリナーも敵わない。
https://www.youtube.com/watch?v=6vKCwNfoM9M
https://www.youtube.com/watch?v=AvsCDPpzwSc
https://www.youtube.com/watch?v=wqNFLHutHPQ
https://www.youtube.com/watch?v=L9YxjssrxnY
https://www.youtube.com/watch?v=WviUBldbaII