颱風第六号は昨夜のうちに熱帯低気圧と化し、内陸部を縦断して太平洋に抜けたらしい。それでも夜半には相当な風が吹きすさんだ。おまけに夜明けには震度三の地震まであって熟睡を妨げられた。一夜明けて颱風一過の快晴とはならず、今も低く雲が垂れ込めているが、外の空気はすでに蒸し暑い。これでやっと梅雨明けになろうか。今日も暑くなりそうだ。
夏の始まりを告げる朝に聴くべき音楽がある。海浜に住むようになって、毎年この季節に恋しくなる曲といえば、何はさておき石川セリが唄う《遠い海の記憶》や《海は女の涙》や《八月の濡れた砂》だろうが、それらの歌はやはり盛夏に残しておき、今朝はもうひとつの「夏の海の歌」であるエルガーの歌曲集《海の絵 Sea Pictures》を聴くことにする。それもとっておきの名唱で。
"Maureen Forrester / McGill Symphony Orchestra"
エドワード・エルガー:
海の絵
■ 海の子守唄 Sea Slumber Song
■ 港にて(カプリ) In Haven (Capri)
■ 海の安息日の朝 Sabbath Morning at Sea
■ 珊瑚礁のあるところ Where Corals Lie
■ 泳ぐ人 The Swimmer
ドナルド・スティーヴン:
孤独な歓喜の数ページ
マルコム・フォーサイス:
サスカチュワン州のメティ族の三つの歌
コントラルト/モーリーン・フォレスター
リチャード・ホーニッチ(Richard Hoenich)指揮
マギル交響楽団
1986年、モントリオール、マギル大学ポラック・コンサート・ホール
McGill 750 028-2 (1988)
発売から間もない1990年前後に池袋「アールヴィヴァン」のレコード売場で手にして以来、新品・中古を問わず一度たりとも目にしていないから、三十年を経て今やこのCDを稀覯盤と呼んでもよかろう。
この歌唱にひとたび接すると、これこそ至高の《海の絵》だと直ちに了解されるのだが、いかんせん入手はひどく困難である。かつて京都にあった喫茶店「カフェ・エルガー」にわざわざ持参し、お店の装置でかけてもらったら、筋金入りのエルガー愛好家の店主もいたく気に入っていた。
手元にある同曲の四十余種のディスクのなかで、すべてを優しく包み込む「母なる海」の存在をここまで実感させるのは、モーリーン・フォレスターの偉大な声を措いてほかにはない。
https://www.youtube.com/watch?v=dnHtt9ZQY1M