4月20日(土)
翌土曜日には、一度ぜひ訪れたいという映画好きの友人を伴って佐倉のDIC川村記念美術館を訪問。
庭ではちょうど八重桜と枝垂桜が満開を迎え、池の向こうの躑躅もそろそろ咲き始めている。この週末は研究所側の遊歩道も開放されていた。暖かい陽光を全身に浴びて散策、春を満喫できた。
お目当ては言うまでもなく開催中の「ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ」展。それも今日は関連企画として、コーネル制作の映画を特別にフィルム上映(日本に存在する唯一無二の16ミリのプリント群を使用)するというので出かけたのだ。
これら貴重なプリントは1993~94年の「ジョゼフ・コーネル展」でも巡回各館で映写され、一部で熱狂的な賞賛を巻き起こしたものだ。小生は鎌倉で行われた上映会にあがた森魚がふらりと来訪し、昂奮気味に感動を口にした日のことを今でも忘れていない。
その後フィルムはすべて京都精華大学の所蔵となり、爾来おそらく関東では一度も上映されていないはずだ。だから小生もまた四半世紀ぶりに目にする機会を得た。どの映画もかつて何度も観て網膜に刻み込んだから、一部のカラー・フィルムが見るも無惨に褪色してしまった以外は、再見しても目を瞠るような発見はほとんどなく、むしろ無上の懐かしさで心身が満たされた。
今回の上映では事前にも事後にも解説が一切なく、プログラムを記したペラ一枚すら配布されなかった。これで上映会といえるのだろうか。美術館の鈍感な対応(というか無対応)に呆れ果てた。
映画タイトルすら判然とせず、ノンストップ上映ゆえ、そもそも映写された作品が全部で何本だったのかも分からない。不親切ここに極まれり。同行の友人はそれでも熱心に鑑賞していたが、「何が何だかサッパリ判らなかった。題名すら教えてもらえないのでは調べることもできない」と途方に暮れていた。
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それはそれとして、今日の最大の収穫は、美術館の売店で見つけたコーネル関連の珍しい洋書である。
"Joseph Cornell and Surrealism" と題された小ぶりな一冊(→書影)だが、ヴァージニア大学の Fralin Museum of Art という未知の美術館が版元であり、2014年に開催された同名の展覧会に関連して2015年に出た。ただし展覧会カタログではなく、十一本もの小論考を集めた論文集の体裁をなしている。
薄冊のわりに値が張ったが、内容は必ずしもシュルレアリスム関連に限定されず、コーネル映画の第一作《ローズ・ホバート》とその元素材となったハリウッド映画《ボルネオの東》との関係を論じたり、コーネルと音楽の浅からぬ因縁を実証的に考察したり、と多岐にわたる。
こういう本こそ「見つけたら即ゲット」の大原則に粛々と従った。その代わり懐具合は急速に悪化し、帰りの電車賃を払うのがやっと。JR在来線を三本乗り継いで帰宅すると、とっぷり日暮れていた。