いくつかの仕事が重層的にたて込んできつつある。いやなに、ひとつずつ順番に片づけていけば済むのだが、どれも発注元に相応の事情があるらしく、作業の流れが途絶えがちで順調に事が進まない。昔だったら短気に癇癪を起こしてしまうところだが、今や分別盛りの老境に入ったからには、「まあ先方にもいろいろ都合があるのだろう」とばかり、大人しく待機している。
"Delius Miniatures -- Bournemouth Sinfonietta/ del Mar"
ディーリアス:
春に郭公の初音を聴いて
川面の夏の夜
日の出前の歌
二枚の水彩画 (エリック・フェンビー編)
間奏曲とセレナード ~劇音楽《ハッサン》
歌劇《イルメリン》前奏曲
季節外れの燕 (エリック・フェンビー編)
歌劇《フェニモアとゲルダ》間奏曲 (トマス・ビーチャム編)
ノーマン・デル・マー指揮
ボーンマス・シンフォニエッタ
1977年1月、ドーセット、クライストチャーチ・プライオリー
Chandos CHAN 8372 (1985) →アルバム・カヴァー
朧げな記憶だが、このアルバムはかつてLP時代にまず RCA から出て、しばらくして Chandos に権利が譲渡されたのではなかったか。たしかブリストルのハーヴィーズ社(Harveys)という酒造メーカーが出資して1970~80年代に何枚か出た英国音楽シリーズの一枚だったはずだ。このCDでもカヴァーの左下隅にある "Harveys of Bristol English Series" のロゴがその名残である。
ビーチャム、バルビローリ、グローヴズ、マッケラス、ハンドリー、ヒコックスら英国音楽の巨匠たちの後塵を拝する形で、ノーマン・デル・マー Norman del Mar(1919~1994)はなんだか影が薄い地味な存在に留まった。
彼はまずビーチャムの副指揮者に任じられたあと、ベンジャミン・ブリテンのもとでイングリッシュ・オペラ・グループの首席指揮者を務めた。その後はグラズゴーのBBCスコティッシュ交響楽団の常任指揮者を経て、ロンドンのギルドホール音楽学校や王立音楽院で教鞭を執った。英国音楽全般を得意としたほか、リヒャルト・シュトラウス研究者としても一家を成したというが、小生はデル・マーのことをほとんど知らない。たぶん来日もしなかったと思う。
先入観も何もなしに聴き始めたのだが、いいではないか、デル・マーのディーリアス。ビーチャムやバルビローリのような濃厚な個性こそないものの、徒らに自己主張せずに淡々と音楽をして語らしめる姿勢が好もしい。さらりと水のように流れ、風のようにそよぐ音楽といおうか。
あまた架蔵するディーリアス音源のなかで、本盤はとりたてて際だった主張もコンセプトもなく、有名曲を並べたアンソロジー・アルバムとしてこれまで見過ごしてきたが、どうしてどうして、巧まずにディーリアスの風景を淡彩の水彩画さながら現出させるデル・マーの手腕は並ではない。
今となっては容易に探し出せない盤だろうから、せめてYouTube音源でお裾分けと思ったのだが、《二枚の水彩画》しか見つけられなかった。これだけでもデル・マーの素直なディーリアス解釈の片鱗はうかがわれよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4SwPstnJ0y0