百年前のロマンティック・バレエの伝説的な舞姫たちに思いを馳せるとともに、ジョゼフ・コーネルは同時代の何人かのバレリーナーーとりわけタマラ・トゥマノヴァ、ティリー・ロッシュ、ジジ・ジャンメール、アレグラ・ケントら――を熱烈に崇拝し、彼女らのニューヨーク公演に足繁く通った。
タマラ・トゥマノヴァ(タマーラ・トゥマーノワ Tamara Toumanova, 1919–1996)はロシアの名バレリーナ。グルジアの血を引き、本名をタマラ・トゥマニシヴィリ(Tamara Tumanishvili)という。四歳のときパリに移り住み、名教師オリガ・プレオブラジェンスカのもとでバレエを学ぶ。早熟な才能を見出され、1931年バレエ・リュス・ド・モンテカルロの結成に参加、同バレエ団の花形である三人の「ベビー・バレリーナ」のひとりとして人気を博した。ジョルジュ・バランシンに誘われて新生のバレエ団「バレエ1933」でも踊ったほか、バレエ・リュス・ド・モンテカルロでは《ユニオン・パシフィック》《三角帽子》《奇妙な店》《火の鳥》などで主役を務めた。
1940年代からは米国に住み、ニューヨークの「バレエ・シアター」を拠点として活躍、ハリウッド映画にも数多く出演した(《炎のロシア戦線/栄光の日々》《我が心に君深く》《舞踏への勧誘》《引き裂かれたカーテン》ほか)。
コーネルは1940年、友人の画家・舞台美術家パーヴェル・チェリチェフを介してトゥマノヴァに紹介された。彼女の美貌と妙技に魅了されたコーネルは、頻繁に手紙をやり取りするとともに、時にささやかなプレゼントを手に楽屋を訪れた。トゥマノヴァは戸惑いながらも、この年長の奇妙な礼賛者の好意を受け入れ、両者の親交はコーネルの晩年まで長きに及んだ。
DIC川村記念美術館の展覧会「ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ」では、特別にタマラ・トゥマノヴァにまつわる展示があり、コーネルが彼女に捧げたコラージュ作品(→これ)、彼女から届いた手紙、スクラップブック素材などが並べられ、憧憬と讃仰の念に満たされた仄かな光芒を宿している。