ベルトルト・ブレヒトとクルト・ワイルの協働作品を聴き始めたのは、いつからだったろう。十代の頃ではなかったことは確かだ。鋭い諷刺と諧謔、胸に沁みる悲愁を帯びた一連の「ソング」は、それなりに人生の哀歓を経験した大人でないと楽しめない。ドイツ・ビールのほろ苦い味みたいなものだ。
オペラ歌手から舞台女優まで、音盤と実演で数多くの歌手が唄うのを聴いてきたが、なかなか満足できる歌唱には出逢えない。並外れた歌唱力と表現力を兼ね備え、加えてそこに曰く言い難い「天性」を併せ持つ少数の歌い手だけが、ブレヒト=ワイルを自分のものにできるのだろう。
昨年の11月、ふと思い立って渋谷の小さなライヴハウスで、こぐれみわぞうが《三文オペラ》の劇中ソングを歌うのを聴いた。大岡淳が新訳した日本語詞の秀逸さもさることながら、それぞれの歌を完全にわがものとした唄いっぷりに震撼させられた。胸に突き刺さる歌詞、圧倒的な歌唱力。滅多にないことだが、会場でブレヒトその人の気配を感じたほどである。
(当夜の拙レヴュー
→肺腑を抉る日本語のブレヒト=ワイル )
感激が冷めやらぬまま、小生は咄嗟にこうツイートしたものだ。
言葉(ブレヒト)と音楽(ワイル)が同時に耳に飛び込んで、そのまま無条件で胸を直撃する。これこそ「ソング」の醍醐味ですね! まるでブレヒトが日本語で書いてくれたみたいだ、と思いました。 今度の日曜日、こぐれみわぞうは再び日本語によるブレヒト=ワイルに挑むのだという。彼女は昨秋の《三文オペラ》ソング日本語版を再演するとともに、ローザ・ルクセンブルクの非業の死を悼む「水に溺れた少女」(《ベルリン・レクイエム》の第二曲)を自ら和訳して臨むそうだ。その心意気やよし! そうと知ったら、もう足を運ばずにはいられまいて。
3月17日(日)中目黒のFJ'sで夜六時半から。共演は大熊ワタル(クラリネット)、近藤達郎(ピアノ)、木村仁哉(チューバ)、そして大岡淳も特別出演する由。
みわぞうさんはわがツイートの拙い評言を気に入ってくれたらしく、ライヴの告知広告に使ってくださった。素直に嬉しい。
https://twitter.com/koguremiwazow/status/1106167432710774784