ミシェル・ルグランが亡くなったと聞いて言葉を失っている。第一報によれば25日の夜から26日の朝の間に息を引き取ったというから、眠るような安らかな死だったに違いあるまい。享年八十六。
なにしろジョナス・メカスの訃報に接した直後だから、驚きも哀しみもまた一入である。
彼が20世紀の映画音楽界で最も偉大な作曲家であることは論を俟つまい。モーリス・ジョーベールやモーリス・ジャールやディミトリ・ティオムキンやバーナード・ハーマンがいるではないかとの異論もあろうが、なにしろ彼は苗字からして偉大(Le Grand)なのだから。
それはともかく、ルグランを偲んで何を聴くべきか。
《シェルブールの雨傘》《ロシュフォールの恋人たち》《ロバと王女》か、はたまた《華麗なる賭け》《おもいでの夏》か、《愛のイエントル》か、《想い出のマルセイユ》か。《ローラ》や《5時から7時までのクレオ》や《女と男のいる舗道》もある。
おしなべてルグランの楽曲は生きる歓び(La joie de vivre)に満ちていて、およそ追悼音楽とは相容れない。しんみりした曲想のなかにも、その根底には人生を愛し慈しむ感情が流れていて、死者を偲ぶのに似つかわしくない。そこがルグランのルグランたる所以なのだが。
とりあえず、これにしようと選び出したのは、ジョゼフ・ロージー監督作品《恋 The Go-Between/ Le Messager》(1971)のための音楽。
鍾愛の一本だから、ということもあるが、身分違いの悲恋を冷静な眼差しで描いた端正な作品にふさわしく、やや古風な味わいのなかに、忍び寄る悲劇を切々と謳い上げた名品である。
ここで聴くのは映画のサウンドトラックそのものではなく、登場する主題を綴り合せてピアノ協奏曲に仕立てた演奏会用組曲ヴァージョン。指揮はルグラン自身である(→これ)。