なぜ「アタラント号 L'Atalante」なのか、という疑問。
常々思っていたのだが、これはおそらくギリシア神話に出てくる女狩人アタランテ(Ἀταλάντη)に因んだ命名ではないだろうか。
駿足自慢のアタランテは言い寄る求婚者たちと次々に競走し、敗れた者は約束どおり落命した。ちょっとトゥーランドット姫を思わせる無慈悲な未婚の女なのである。ところがヒッポメネス(Ἱππομένης)なる若者が一計を講じ、アタランテと競走しながら三個の林檎を次々に放り投げた。つい林檎に気を取られ、それらを拾おうと立ち止まったアタランテは敗北し、彼女は遂にヒッポメネスに嫁いだという。
運河やセーヌ川を行き来する小さなしがないポンポン蒸気の運搬船ながら、上り下りの航行スピードを誇って(あるいは希って)、神話の女性にあやかって「足早姫」と名づけたのだと思う。違っているかしらん。
グィード・レーニ(Guido Reni)の油彩画《アタランテとヒッポメネス》(1618~19年、マドリード、プラド美術館 →これ)。アタランテが慌てて林檎を拾い集めている。