今年の三が日はよく晴れた。雲一つない正月の晴れ渡った紺碧の空。時おり飛行機が西へと白い航跡を描く。見上げるこちらの心まで澄み切ってしまう。
明けて四日目もまた快晴だ。家人は実家に帰郷して留守にしているので、なに遠慮なく音楽をかけて過ごす。Frei aber einsam.
こんな日にはヴァイオリンがよく似合う。それも雄勁で強靭で清冽な、淀みのない音色のヴァイオリンが。
《レオニード・コーガン大全集⑪》
ブラームス: ソナタ 第一番
プロコフィエフ: ソナタ 第二番
デ・ファリャ(コハンスキ編): スペイン民謡組曲
カステルヌオーヴォ=テデスコ(ハイフェッツ編):
ロッシーニの《セビーリャの理髪師》による演奏会用編曲
ブラームス: スケルツォ ~《F.A.E.ソナタ》
ドヴォジャーク(ハイフェッツ編): ユーモレスク
ヴァイオリン/レオニード・コーガン
ピアノ/アンドレイ・ムイトニク
1963年4月7日、モスクワ音楽院大ホール(実況)
Triton DMCC-24011 (1996) →アルバム・カヴァー
ソ連邦崩壊後の混乱期、英米韓日入り乱れて群小レーベルからロシアの演奏家たちの放送録音がどっと出た一時期があった。日本のトリトン(Triton)レーベルはその筆頭だった。モスクワ放送のアーカイヴに深く分け入って、往年の大家のそれまで耳にしたことのない稀少な音源の発掘に大きな成果を挙げた。
マリヤ・ユージナ、ウラジーミル・ソフロニツキー、サムイル・フェインベルグ、マリヤ・グリンベルグ、ダニイル・シャフラン・・・。
なかでも全三十点に及ぶ「レオニード・コーガン大全集」は壮観だった。これまで同時代のダヴィッド・オイストラフの影に隠れてしまいがちだったこの稀代のヴィルトゥオーゾの至芸を、文字どおり余すところなく開陳してみせたのだ。
惜しいことに、トリトンのCDはほんの数年で市場から姿を消し、この「コーガン大全集」などは中古ショップの店頭でも、某オークションでも、一点数千~一万円の高値で取引されており、貧書生にはおいそれと手が出せない。これではせっかくの好企画が泣くではないか。
拙宅には全点数のようやく三分の一ほどを架蔵するばかりだが、幸いにもコーガン絶頂期の姿を記録した1963年のリサイタル盤を入手してある。
言うまでもなく技巧は完璧、実況なのにどこにも傷ひとつない。この直截で迷いのないブラームスとプロコフィエフは人類の宝だ。今日はどこまでも高く澄み切った空の下でこれを聴こう。