ようやく届いた「ピエール・モントゥー秘蔵音源集 1955, 1956, 1961」(4CDs)を聴き始めたところ。ロンドンとエディンバラでのライヴ録音、すべての音源が世界初出である。
英国20世紀音楽専門のインディーズ・レーベル「リリタ(Lyrita)」の創始者リチャード・イッター Richard Itter(1928~2014)が愛好家時代に自宅の機材で熱心にエア・チェックした1,500点ものライヴ音源のごく一部。すべてBBCがラジオ中継したものだが、放送局には原テープが残されておらず、このイッター録音は現存する唯一の、貴重このうえない遺産である。
"Pierre Monteux"
■ Disc 1
ドビュッシー:《映像》
ショーソン: 交響曲
ピエール・モントゥー指揮
BBC交響楽団
■ Disc 2
ブラームス: 交響曲 第3番
フランク: 交響的変奏曲*
ハイドン: 交響曲 第102番 ▶これのみシャルル・ミュンシュ指揮
ピアノ/ロベール・カサドシュ*
ピエール・モントゥー指揮
ボストン交響楽団
■ Disc 3
ブラームス: 二重協奏曲*
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲**
ヴァイオリン/ジノ・フランチェスカッティ* **
チェロ/ピエール・フルニエ**
ピエール・モントゥー指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
■ Disc 4
ダンディ:《フランスの山人の歌による交響曲》*
ベルリオーズ: 劇的交響曲《ロミオとジュリエット》第三部**
ピアノ/ヴァレリー・トライオン*
バス(修道士ローレンス)/アンドレ・ヴェシエール**
ピエール・モントゥー指揮
BBC交響楽団*
BBC合唱団、BBC合唱協会、ロンドン交響楽団**
■ Disc 1
1956年5月11日、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
■ Disc 2
1956年8月26(ハイドン)・29日、エディンバラ、アッシャー・ホール
■ Disc 3
1955年4月26・28日(ドッペル)、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
■ Disc 4
1961年10月16日、ロンドン、BBCスタジオ(ダンディ)
1961年5月22日、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(ベルリオーズ)
ICA Classics ICAC 5150 (2018) →アルバム・カヴァー
すべてがフランス音楽というわけではなく、収録曲の半分ほどがブラームス(モントゥー鍾愛の作曲家)だが、老巨匠の円熟の極みを克明に記録した実況録音が、これだけまとまって残されたのは僥倖といえるだろう。
とりわけフランクの《交響的変奏曲》はこれまでモントゥーが指揮した音源は(小生の知る限り)全く知られておらず、永年の盟友カサドシュとの共演ライヴの出現は、まさしく瞠目に値する。
ショーソンの交響曲も、これまではサン・フランシスコ交響楽団との古いスタジオ録音(RCA, 1950年)しか存在が確認されておらず、気迫に満ちた鮮明なライヴ録音は値千金というべき至宝である。
まだ全部を聴いたわけではないが、モノーラルながら音質は総じて上々で分離も良好、自然な流れを何よりも重視し、感興の赴くまま、音楽そのものに語らせるモントゥーの芸風がよくわかる。フランスものはもちろんのこと、ブラームスがとりわけ胸に迫る秀演ではないだろうか。
モントゥーのファンのみならず、音楽を愛するすべての方々に、必携のボックス・セットとして強くお薦めしたい。