今夜は誕生日なので夕食は麦酒で乾杯。ツマミは秋らしく新鮮な秋刀魚の塩焼きだ。これで満足なのだから、われながら安上がりである。さて夕食後ももう少しドビュッシーの続きを聴こう。一カ月ほど前に入手し、別のところで手短にレヴューしたアルバム。そのときの文章をほぼそのまま再掲しておく。
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"Claude Debussy; Les trois Sonates"
ドビュッシー:
チェロとピアノのためのソナタ
フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
フルート/ジャン=ピエール・ランパル
ヴィオラ/ブリュノ・パスキエ
ハープ/マリエル・ノルドマン
チェロ/ロラン・ピドゥー
ヴァイオリン/パトリス・フォンタナローザ
ピアノ/エミール・ナウモフ
1999年3月15, 16日、4月26日、パリ、コルタンベール街、プロテスタント教会(Église protestante unie de Passy-Annonciation)
仏Saphir LVC 001008 (1999) →アルバム・カヴァー
収録曲はソナタ三曲のみなので、演奏時間わずか四十二分という、なんとも潔いCDである。今どき珍しいことだ。
不勉強な小生は、こんな録音が存在するのをつい最近まで気づかなかった。フランス音楽に詳しい方々ならきっと「なんだ、この名盤を知らないのか!」と叱責なさるだろう。
フルートにランパルが加わったドビュッシーのソナタ集アルバムといえば、作曲家の生誕百周年の1962年に収録された仏Erato盤があまりにも名高い(ヴィオラ/ピエール・パスキエ、ハープ/リリー・ラスキーヌ)。彼は1951/52年にも仏Ducretet-Thomsonでこの《フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ》を録音していた(ヴィオラ/ピエール・パスキエ、ハープ/オデット・ル・ダンテュ)。
ランパルにとっておそらく三度目(で最後)の録音となった本盤の収録時、彼はすでに七十七歳(!)、翌2000年には歿してしまうので、いわばドビュッシーに託された老匠の遺言として謹んで拝聴する。
共演相手が代替わり(ブリュノはピエール・パスキエの息子、マリエル・ノルドマンはラスキーヌの愛弟子)しているのに、ランパルだけは現役で吹き続けているのは、考えてみたら凄いことだ。
さすがに往時の音色の眩い輝きやフレージングの閃きは影を潜めているが、しみじみ胸に染み入る演奏である。一聴してランパルとわかる個性が刻印されているのは、老いたりとはいえ、名人上手とは大したものだと感嘆する。
チェロ・ソナタでのピドゥーも、ヴァイオリン・ソナタでのフォンタナローザも、ナディア・ブーランジェの最後の弟子ナウモフのピアノも、それぞれに健闘している。かつての「ヴァイオリン界の貴公子」フォンタナローザが禿頭のおっさんになっているのには吃驚したが(人のことは言えない)。
地味ながら味わい深く、繰り返し聴きたくなるディスク。もっと知られていいはずだが、マイナー・レーベルのせいか、ほとんど喧伝されずに埋もれている。それがまた似つかわしくもある燻し銀のアルバムなのである。
個人的には、ドビュッシーが死ぬまで手元に置いて眺めていたというカミーユ・クローデルの小品彫刻《ラ・ヴァルス》がさりげなくジャケットを飾っているのが嬉しい。